皆が見守る中、タロットカードが捲られる。
机に置かれたカードを見て、斎王は呟くように名を言った。

「これは『吊るされた男』の正位置・・・」

「斎王?それは一体どういう意味のカードなんだい?」

「このカードの意味は「試練」・・近い未来、誰かに試練が訪れることを予期しているね」

「それは・・・ヒーローにってことか?」

「そこまで詳しいことは分からないよ、けれど「試練」は訪れる」

誰かに試練が    その言葉を胸に、皆は斎王の部屋を後にした。



第14話 訪れた試練



「今日も暇だな・・・」

その日、ジムは管理人室でぼうっとしていた。
足元近くにはカレンが丸まって眠っている。

「今日は、何もないといいんだが」

海馬コーポレーションがヒーロー用にと買い取ったビルだから、入居は出来ない。
ヒーロー以外にこのビルを訪れるのは郵便配達の人くらいのものだ。
管理人室なんて名前だけで、その用途は実際にはカレンとまったりするくらいだった。

「あれ?」

マンションと外との間、押し扉を開けて入ってきたのは少女だった。
腰ほどまである金髪、それと同色の大きなぱっちりした瞳。なかなかの美人だ。
目が合った。きりっとしたつり目は意志が強そうだ。

「あー、ここは一般の人は立ち入り禁止で、」

「丸藤翔を、出してもらえないかしら」

「・・・What?」

「丸藤翔、よ。いるんでしょう?翔くんに会いたいのよ」

「いるけれど・・・何故、」

「いいから呼んで」

声のトーンが著しく下がった。機嫌を損ねているらしい。
睨みつけてくるその瞳に気圧されて、ジムはコクリと首を縦に振った。



* * *



「・・・どうぞ」

「あら、ありがとう」

管理人室のソファーに座り、足を組んで腕を組む少女の前に、三沢はカップを置いた。
ジムは翔を呼びに行っている。不機嫌そうな彼女に、三沢は声をかけた。

「それで、丸藤翔に何の用なんだ?」

「ただ、私は連れ戻しに来ただけよ」

「連れ戻しに・・?彼との関係は?」

「私は翔くんの幼馴染なの」

「へぇ・・・」

兄が行方不明になった、と話していたとき、話題に上った幼馴染。
それがきっとこの子なのだろう、と推測して、三沢は少女の向かい側に座った。

「それで、ここに引っ越したのが気に入らない?」

「まぁね」

亮と兄さんは帰ってこないし、その上翔くんまで・・とこぼす少女。
そのタイミングでガチャリ、と扉が開いた。入ってきたのはジムと翔だ。

「あ・・明日香、さん」

「翔くん、これは一体どういう事なの?」

「え、あの・・・」

明日香さん、と翔に呼ばれた少女は、睨みつけるようにして問いかける。
翔が若干後ずさりしているのは気のせいではないのだろう。

「翔、こっちにきてソファーに座るといい。俺は君の分のお茶を淹れて来るよ」

「う、うん・・・ありがとう、三沢くん」

三沢が立ち上がって茶を淹れるために退室すると、翔は明日香の向かい側に座る。
ジムは翔の座るソファーの後ろの壁に寄りかかるようにして二人の様子を見ていた。

「翔くん、昨日何があったの?」

「えっと、昨日、僕はヒーローに助けられて・・」

「ヒーロー?何よそれ、冗談はやめてちょうだい」

「ほ、本当だよ!後ろの、ジムさんだってヒーローなんだよ」

向かい側の翔を見ていた明日香の視線がジムに移る。
明らかに胡散臭そうな目で見ている少女に対し、ジムは笑みを浮かべた。

「翔、まず彼女のことを教えてくれないか?」

「あ、えっと、僕の幼馴染の、天上院明日香さんだよ」

「ふうん・・tomorrow girlと呼んでも?」

「どうだっていいわ、好きに呼んで」

相当怒っているらしい明日香は、吐き捨てるように言った。
そこで管理人室の扉が開き、三沢がお盆にカップを載せて戻ってきた。
湯気の立つそれを翔の前に置いて、三沢はそのまま退室していった。

「じゃあ、ヒーローに助けられたとしましょう、それで?」

「う、うん、それで、僕もヒーローになって、ここに住むことになったんだ」

「・・・あなたも?そんな簡単になれるものなのね、ヒーローって」

「あ、その、僕が志願しただけで、まだ決まったわけじゃ・・」

「で、ヒーローになってここに住むことになったのはなぜなの?」

「それに関しては、俺から説明させてもらおう」

話を聞いていたジムが、翔の座るソファーのところまで歩いてきた。

「自己紹介をしておこう、俺の名前はジム・クロコダイル・クック。好きなように呼んでくれ」

「よろしく。それで?」

「ああ、このビルは   」

ジムが説明しようとしたそのときだ。管理人室の扉が開き、入ってきたのは三沢だ。

「博士、街でモンスターが暴れています」

「・・・わかった。君達も来てくれ」

管理人室から出て行く三沢とジムの後に続いて、翔と明日香も部屋を後にした。
マンホールから地下に降り、基地に入ると、そこにはもうヒーロー三人と斎王がいた。

「敵の姿を捉えた、今から映すよ」

斎王が手元のパソコンを操作すると、スクリーンの画面が切り替わった。
大きなスクリーンに映し出されたのは、薄暗い曇った空を背景に飛ぶ黒い龍。
それを見た明日香と翔の瞳が、大きく見開かれた。

「あれは・・兄さんの『真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネス・ドラゴン)』・・・!」

「明日香さんもそう思う?」

二人にしか分からない会話に、他の全員の視線が集中する。
そもそもヒーロー達に至っては、明日香とも初対面だ。
なにやら不穏な空気が基地内に満ちている。

「やっぱり、あれは吹雪さんの・・?!」

「間違いないわ、絶対にそうよ。兄さんたら・・!」

くるりと踵を返して駆け出していった明日香、それを追う翔。
二人の姿が見えなくなってから、最初に我に返ったのはジムだった。

「いけない、二人はまだ一般人だ。早く彼らを追わないと」

その言葉に、ヒーロー達と通信班も我に返る。
翔と明日香を呆然と見送って数瞬後、ヒーロー達はあわてて出動していった。



* * *



「フフフッ・・さぁ、もっと暴れてみせろ・・!」

漆黒のコートを纏った茶髪の男は、ビルの上から破壊される街を見ていた。
竜の吐く炎によって、辺りのビルや車が炎上している。
こちらに向かってくる二人の姿を視界の端に捉えて、口の端を吊り上げた。

「兄さん!何やってるのよ、やめてちょうだい!」

「吹雪さんやめてよ!お兄さんはどこなの!?」

自分に向かって叫ぶ、最愛の妹と自分の親友の弟。
それに答えようとして口を開いたその時、その後ろを走ってくる三人が見えた。

「そうか・・明日香、翔くん、君達はヒーロー側についたんだね」

「は?ちょっと、何訳のわからないこと言ってるのよ兄さん!」

「そう!オレ達は正義のヒーローだぜ!」

後方からの叫び声に明日香と翔が振り向けば、
後ろには濃灰色のコートを纏ったヒーローが3人立っていた。

「君は一体誰なんだ!?」

エドが指差しながら叫ぶ。茶髪の男は髪をかきあげると、ニッコリと笑って言った。

「僕は闇の王の命令の下、この街を破壊しに来た」

「ちょっと、兄さん!?破壊しに来たって、本当にふざけるのはやめてよ!」

「ふざけてなんかいないよ、明日香。僕はこちら側についたんだ」

「何を言ってるのよ兄さん!」

「僕はこの街を破壊しに来た。ヒーローを倒すために来た。ただそれだけだよ明日香」

「そんな・・!」

明日香が一歩後ずさる。さすがに驚きを隠せないようだった。
それと同時に、一歩前に踏み出したのは翔だった。

「吹雪さんやめてよ!それに、僕のお兄さんはどうしたんだよ!?」

「亮?あぁ、亮もそのうちこの街を破壊しにくるんじゃないかな」

「そんな、嘘・・!お兄さんもそっち側にまわったっていうの!?」

「そうだよ、僕と一緒にね」

不気味なほど妖艶に、愉しげに笑う吹雪。
吹雪が指笛を鳴らすと、漆黒の竜が吹雪の側に戻ってくる。

「今日は顔見せに来ただけなんだ、君達と争う気は無いよ」

「ふざけるな!キサマは一体何者なんだ!?」

万丈目が叫ぶと、吹雪は竜の頭を撫でながら言った。

「僕は"闇の三帝"の一人、ダークネス吹雪。また会おう、ヒーロー達!」

ハハハハハ!と笑いながら指を鳴らすと、ダークネス吹雪は闇の中に消えていった。
残されたのは、赤い炎が燃え上がるビル群と、ヒーロー達。
そして兄達が敵に回ったという事実を知った明日香と翔だけだった。

「なあ、消火活動どうするんだよ?」

「・・・そうだ」

十代のふとした疑問に、考え込むエドと万丈目。
何か思いついたように万丈目は通信する。出たのは三沢だった。

『どうかしたのか、万丈目?』

「三沢、お前ウォータードラゴン持ってたろ」

『ああ、持ってるが・・どういうことだ?』

「火が消えない。お前のモンスターは水属性のものが多いからな」

『ああ・・・そういうことか。わかった、すぐにそちらに向かう』

そこで通信が切れた。これで炎は消えるだろう、とヒーロー達は安心する。

「・・うぅ、」

呻くような泣き声に十代が顔を向けると、コンクリートの道路にしゃがみこんだ翔だった。
下を向いて、肩を震わせている。十代はそっと近寄っていった。

「そんな・・・お兄さんが・・、」

ショックを受けている翔の肩を叩く十代。翔の目には涙が溜まっている。
同じくショックを受けているのだろう、俯いている明日香に万丈目が近づいた、そのときだった。

「・・フフッ、」

「・・・?おい?」

「フフフフフッ、アハハハハハハ!!!」

突然笑い出した明日香に思わず後ずさる万丈目。
エドや十代も、翔はあまりのことに泣きやんで明日香を見る。

「ふざけた真似をしてくれたわね、兄さん・・私が兄さんを止めるわ!」

「・・・翔、アイツどうなったんだ?」

「明日香さんがマジギレした・・・」

わなわなと震える翔の顔が青ざめている。
確かに、明日香は危険な笑みを浮かべて立っている。
そしてくるりと踵を返すと、基地のあるほうに歩き出した。

「ちょ、明日香さん!?ど、どうしたの?」

翔が思わず声を掛けると、ニッコリと笑いながら振り返った。
まあその笑顔は口許だけで、目は据わっていたので笑顔とはいえない表情であったが。

「兄さんを止めるにはヒーローになるしかないのよね?」

「え、あ、まぁ、そうだけど・・」

「なら、私もヒーローになるわ」

先ほどまではヒーローの存在すらもうっとうしがっていたのに。
口の端を吊り上げて攻撃的に笑う明日香を見ながら思う翔。
まぁ、こういうことは天上院兄妹の間では慣れていたので黙っておく。

「そうと決めたら早く基本的なことを学びたいの」

「あ、うん!」

僕も、一緒にヒーローのやること聞きたい、と続ける翔。
何はともあれ、仲間が増えたエドと十代は顔を見合わせて喜んでいる。
万丈目はというと、一人溜め息を吐いていた。

「早く帰りましょう。それで、私に色々教えてくれる?」

「あぁ、わかったぜ。それで、名前は?」

十代の質問に、明日香はヒーロー達に向き直った。
そういえばヒーロー達には名乗っていなかった、と思い出したのだ。

「私は明日香。天上院明日香よ」

「そっか。よろしくな、明日香!」

「ええ、よろしく」

そうして、新たな仲間を増やしてヒーロー達は基地へ戻っていった。





                                  <続>






あとがきという名の懺悔

吹雪が登場いたしました、イエーイ!楽しいな!
もうちょっと兄妹の掛け合いとか書きたかったんですけどね!
あ、ダークネス吹雪は仮面をつけていません。ので正体はバレバレです☆←
明日香さんは本編の白明日香さんのようにクールで怖いです。
そして翔はブラコンでよく泣きます・・・うん、もうちょっと頑張れ、翔。
次は誰が来るんだか、実はライにもわかりません(コラ
次回をお楽しみにー!