半年間だ。WRGPに勝って、ネオ童実野シティから去って、半年間武者修行をしていた。
各地を放浪しつつ、たくさんの人と決闘して、勝って、勝って、勝って。
持てるすべての力をぶつけた遊星との決闘に悔いはない。それが例え負けたとしても。

「ジャック、今日はどこかに泊まるのか?」

「・・・俺の帰る場所はここしかあるまい」

どっかとソファーに腰を下ろせば、古ぼけたソファーは小さく軋んだ。
今は遊星宅となってすっかり広々としてしまった家を見回して苦笑する。

「お前がそこに座っているのを見るのも久し振りだ・・コーヒーでも飲むか、ジャック?」

「あぁ、もらおう」

キッチンに消えていく背中を目で追いながら、俺はソファーの背もたれに寄りかかる。
目を閉じれば、微かに聞こえるガスの点いた音と、家の落ち着ける匂いを感じ、
深く呼吸すればあとは襲い来る眠気に負け、ゆっくりと意識を手放した。



帰るべき場所



「・・・ジャック?」

マグカップを二つ持ってきた遊星がみたのは、すやすやと寝息を立てているジャックだった。
長旅で疲れているのだろうと推測し、安らかな寝顔を見せるジャックに思わず苦笑した。

「眉間に皺の寄っていないジャックは久しぶりに見る」

いや、むしろジャックと久しぶりに会った、と言うべきだろう。なにせ半年ぶりだ。
そう考えて一人頭(かぶり)を振りながら、遊星はそっとジャックの隣に腰掛けた。
ジャックに寄りかかって肩に頭を預けると、ジャックの高い体温が伝わり、体臭が鼻を掠める。
思わず大きく息を吸い込むと、あぁ本当にジャックだ、と今更なことを考えた。

「・・・重いぞ遊星」

「ジャック・・、すまない、起こしてしまったな」

「いいや平気だ・・・」

遊星が身体を離すと、ジャックは背もたれから離れて大きく伸びをした。
眠たげに目を擦り、何回か瞬きを繰り返すと、ジャックは完全に覚醒したようだ。
テーブルに置いてあったマグカップを持って、コーヒーを一口飲む。

「・・・相変わらず安っぽい味だ」

「すまない、お前のようにこだわりがないからついインスタントで済ませてしまうんだ」

その感想も久々に聞いた、と苦笑しつつ、もう一口コーヒーを飲んだ。
何かと難癖はつけるが別に飲みたくないわけではないし淹れてくれたことには感謝をしている。
そんなジャックの意図を正確に読み取ってくれる遊星は、苦笑しただけで何も言わなかった。

「お前は残るんだな」

「・・・あぁ」

何のことか分かったのだろう。遊星は至極穏やかに返答した。
それが遊星の意思ならば、ジャック自身はそれでいいと思っている。
プロの舞台で戦えないのは惜しいが、ここに来れば会えてデュエルもできるのだから。

「・・・もし、貴様がゼロ・リバースのことで気にかけているなら・・」

「・・・そんなんじゃないんだ、ジャック」

遊星は緩やかに首を振って視線を遠くへやった。
青い瞳に熱情はなく、ただ穏やかな海のように静かだった。

「確かに一時期負い目を感じていたが、俺は俺の意志でここに残るんだ。
俺はここを、皆が安心して帰ってこられる場所にしたいから」

「・・・そうか、ならいい」

コーヒーをさっさと飲み干してしまうと、ジャックは大きく伸びをした。
ミシリ、と軋む体に眉をひそめれば、そうだ、と遊星が言った。

「ここに泊まるのはいいんだが・・ジャック、ベッドがないんだ」

「構わん。ソファーでいいぞ」

「・・・いや、長旅で疲れているだろう俺が、」

「だから構わんと」

「いや、ジャックがベッドを」

「ええい!俺がいいと言っているのだ!」

睨みつければ、深海のような深い青の目と視線が重なる。
それはこんな言い合いの中でもどこか穏やかで、ジャックは不思議と激情が収まっていくのを感じた。

「・・わかった。じゃあ妥協案だ、2人で寝よう」

「・・・!?ベッドにか!」

「そうだ。小さい頃はよくやっていただろう」

「いや、しかし・・・俺と貴様だぞ?しかもその、」

自分で言うのもなんだがかなりの長身である自分と、遊星が一つのベッドで寝る?
そう考えてジャックはそのあり得ないイメージを振りはらった。
遊星だって、普通の成人男性並みには身長があるのだ。
無理とは言わないが窮屈なことになるのは確実だろう。

「・・・やはり俺がソファーで寝る」

「それこそ、ジャックは客だぞ。客をソファーで寝かせるわけには・・」

「フン、ここが俺の帰る場所ならここは俺の家だ。どこに寝ようと俺の勝手だろう」

「しかし・・・」

「なぜそこまで気にするのだ?俺は構わんと言っているんだぞ?」

「・・・・・」

遊星はどこか気まずそうに視線を彷徨わせた。ジャックは首を傾げる。
ちら、とジャックを見やった遊星は、決意したようにそっと口を開いた。

「久々に、ジャックが一緒にいるから・・その、一緒に寝たいんだ」

だめか。そう遠慮がちに言われ、ジャックは目を瞬かせた。
確かに自分たちは恋人という間柄ではあるが、そんなことを遊星から言われるとは思わなかったのだ。
遊星はどちらかといえば不言実行タイプだったからだ。

「・・・フン、仕方がないな」

「・・・ありがとう、ジャック。今、風呂を沸かしてくる」

「あぁ、分かった」

部屋を後にする遊星の後姿が心なしか機嫌良く見えて、ジャックは苦笑した。

「決して寂しがるような子供ではないだろうに、俺もまだまだ遊星には甘いのだな」

久しぶりに会った幼馴染であり仲間であり恋人である遊星。
・・案外俺も寂しかったのかもしれないな、などと思いながら、
ジャックは少し温くなってしまったコーヒーに口をつけた。





                                  <完>





あとがきという名の懺悔

正面から抱き合って眠る遊ジャが見たいと思って書き始めたものだったんですが。
・・・どうしてこうなったのか・・・寝てねーぞ。
最終回の遊ジャデュエルが終わったら、きっとその日はジャックが遊星の家に泊まるかなと。
それを考えていったら最終的に一つのベッドに抱き合って眠る遊ジャが出てきたので。
あとはゼロ・リバースの話も入れたかったので入れてみました。
やっぱりジャックは、プロとして遊星と戦いたいかな、と思って。
むむ・・・付け足すには蛇足になるので書きませんでしたが・・・、
正面から抱き合って眠る遊ジャ・・いつかリベンジをば。