最近のヤツはどこかおかしい。
性格的な部分じゃなくて、もっと根本的な。

   そう、このまま放っておけば、お前は。
きっといつか、壊れてしまうような気がする。



君の心に平穏を



「十代。」

「ん?どうした、万丈目?何か気付いたことでもあったか?」

「いや、そうではなくて・・」

「じゃあ何だよ?」

・・・いつもと、雰囲気が違う。口調も、いつもより短気そう。
声もいつもより低くて、アカデミアで見ていたような笑顔を見ることも、少なくなった。

「・・・十代、キサマ、少し落ち着け。」

「落ち着いてるよ、オレのどこらへんが慌ててるって言うんだよ?」

「全てが。」

「落ち着いてるってば、万丈目の気のせいじゃねぇの?」

「嘘を吐くな、焦りすぎだ、十代。」

「焦ってねぇよ、オレはちゃんと落ち着いてる。」

ほら、だんだんと短気になってきた。早口でまくしたてている。
けれど、お前は気付いてないんだ。大切な物を失っていることを。

「・・十代、万丈目くんも、喧嘩はやめて。」

「オレは喧嘩なんかしてねぇよ。明日香。」

「あぁ。俺個人の意見を述べているだけだ。」

「けど、十代は怒ってるじゃない。」

「怒ってねぇよ。」

「いいえ、怒ってるわ。ねぇ、一回ちゃんと落ち着いて?」

「落ち着いてるってば!」

いつもとは違うしかめっ面。キサマの笑顔はどこに消えたんだ?
俺は、一体いつから、お前の心からの笑みを見ていなかった?

「・・・十代、意見が合わないようなら、別行動をして頭を冷やすか。」

「何を言ってるんだい、万丈目くん。」

「そうだよ、危険だよ、万丈目くん!」

吹雪さんと丸藤翔が俺を止める。
けれど、これくらいしないと、きっとコイツの頭は冷えない。

「いや、俺は悪くないんだ。いったん頭を冷やせ、十代。」

「・・・・・オレも、悪くない。」

「ねぇ、本当にやめて、どうして喧嘩するのよ?」

「してないってば。万丈目が落ち着けって。」

「俺は充分落ち着いている、少なくともキサマよりは。」

「だから!オレはちゃんと落ち着いてるって・・!」

そこで悔しそうに俯いて、言葉を切る。
自分がいつの間にか怒っていることに、ようやく気付いたらしい。

「事実、激昂しているのはキサマの方だ。」

「・・・万丈目は、どうしてそんなこと言うんだよ?」

「・・・見えていない。一番大切なことが、キサマには見えていない。」

「何なんだよ、何が、見えてないって言うんだ。
 オレ達は、ヨハンを助けにここに来た。それ以外に何かあるって言うのかよ?」

「あぁ。ヨハンを助けるための最低条件から、キサマは分かっていない。」

「そんなの、ヨハンを見つけることに決まってるだろ。」

「違うな。」

俺が意見を一蹴したら、俺を激しく睨みつける。
怒りを感じるその瞳。そんな憎悪(モノ)、俺には効かない。
不の感情をぶつけられることなど、俺は慣れきっていたから。

「じゃあ、一体何だって言うんだよ!」

「自分で分からないのか?」

「    ッ!」

「理解力に欠けるヤツは嫌いだ。」

「万丈目ッ・・・!」

「俺と共に行動するのが嫌ならば、居なくなるさ。」

「ま、待って、万丈目くん!」

振り向いて、別方向に歩き出す。俺の名前を呼ぶ天上院くんの声が聞こえる。
吹雪さんも、丸藤翔も、剣山も俺の名を呼んでいる。
けれど、振り返ったら十代、お前はいつまでたっても、それに気付きはしないから。


* * *


「十代!万丈目くんを止めてよ!」

「・・・アイツが、行きたいって言ったんだ。行かせればいいんじゃねーの?」

「あなたね、自分が何を言ってるか分かってるの!?」

「だって、万丈目がオレと行動するのが嫌だって言ったんだ。
 仕方ないだろ、勝手にアイツがいなくなったんだから。」

「・・・十代くん、聞いてほしいことがあるんだ。」

吹雪が、ゆっくりと十代の前に立った。場がしんと静まる。
フ、と優しげな笑みを浮かべると、吹雪は一呼吸置いて話し始めた。

「万丈目くんはね、君を心配してあんなことを言ったんだと思うよ。」

「What?どういう意味だい?」

「十代くんは、万丈目くんが言った言葉、覚えてる?」

「・・・『ヨハンを助けるための最低条件を分かってない。』」

「そう。十代くん、君には分かるかな?」

「・・・分かんない。だって、ヨハンを見つけなくちゃ話になんないだろ。
 それよりも前に、何があるって言うんだよ。」

吹雪はフゥ、と息を吐いて、十代の肩に手を置いた。

「それは、君自身が気付かなきゃ。」

「でも、分かんないよ。他にあるのか?」

「その固定概念を捨てなくちゃ、始まらないよ。」

「けど・・・オレ、他に思いつかないよ。」

「・・じゃあ、ヒントをあげるね。『この世界とアカデミアの違い』を考えてごらん。」

ニッコリと、いつもより優しげな笑顔を浮かべる吹雪。
こんな時でも余裕を見せられると、改めて吹雪が最年長であることを実感する。

「・・・決闘で、命を懸ける。」

「・・・そうだね。だから?」

「だから、皆が危険で、オレは皆を守らなくちゃで・・」

「僕も、十代くんを含めて皆を、守りたいと思っているよ。」

「・・・じゃあ、万丈目が言うヨハンを助けるための最低条件は・・・?」

「気付いたかな?それとも、まだわからない?」

十代は、顎に人差し指を当て、少し俯く。真剣に考えているようだ。
少ししてから、申し訳なさそうに首を左右に振った。

「・・・分かんない。」

「じゃあ、もう一つ。今度は、君への質問。
『セブン・スターズとの戦いで、君が一番大切に思ったものは何?』」

「・・・・命。アカデミアの皆の、世界中の皆の、モンスター達の、そしてオレの、命。」

「そうだね。じゃあ『この世界とアカデミアの違い』をもう一度言ってみようか。」

「・・・・決闘で、命を懸ける。」

「・・・・もう、分かったね?」

無言で、コクリと頷く。吹雪を見上げて、言った。

「ありがとう、吹雪さん。オレ・・・万丈目に、謝らなくちゃ。」

「・・・そうだね、言っておいで。」

「うん。」

吹雪は駆け出す十代を見送って、ハァ、と溜め息を吐いた。

「可愛らしいねぇ、二人とも。素直になれないんだから。」

「・・・ねぇ、結局、万丈目くんが言った、ヨハンくんを助けるための最低条件って?」

「ん?いいんだよ、皆は知ってるから。」

吹雪の服を少し引っ張って、明日香は聞いた。
剣山や翔も、分からないといった風だ。
けれど、吹雪はそれしか言わず、十代の後姿をただただ見つめるだけだった。


* * *


「・・・万丈目。」

深い谷、切り立った崖。その淵で、万丈目は谷底を見つめていた。
その声に振り返ると、万丈目はオレを軽く睨みつける。

「・・・キサマ、何故ここに居るんだ?」

「えっと・・・」

勢いで来てはみたものの、どうしたらいいんだか分からない。
万丈目を連れ戻さなきゃいけないし、しかも万丈目一人にしたら危ないし。
でも、何て言ったら万丈目が戻ってきてくれるのか、全然分からなかった。

「・・・・何もないならさっさと帰れ。」

「万丈目が、言いたかったこと、分かったから。」

「・・・ほぅ?分かったのか?その中身の無い頭で?」

「うッ・・わ、分かったよ、絶対合ってるって!」

「じゃあ、言ってみろ。」

「・・・えっと、"自分の命"。」

「・・・・理由は?」

「オレ、人のことばっかり考えて、自分のこと、顧みなかった。
 それに、オレが生きてなきゃ、ヨハンを探す事だって、出来ないんだよな。」

「・・・・ハッ。」

うわぁ、この展開で鼻で笑うのかよ。冷たすぎだろ、万丈目。
普通はここで「見直したぞ、十代。」とか、そういう褒め言葉を言うトコだろ。

「分かればいいんだ、分かれば。」

「・・・じゃ、戻ってきてくれるのか?」

「自分に非があると認めたならな。」

「・・・認めるよ、ごめん。」

「・・・なら、仕方ないな。キサマがどうしてもと言うんだ、戻ってやろう。」

「・・・やったぁ!万丈目     っ!」

がばぁ、と抱きつく。あれ?後ろ、つーかオレ達・・落ちてねぇ?

「キッ、キサマぁ!俺の後ろに崖があることを知っての行為だろうなッ!?」

「うわッ、ご、ごめんごめん!」

「もう遅いわッ!!」

宙に浮いた身体。後ろを向けば、足場なんかなくて。
下は底が見えないくらい深くて暗くて、少し水音がする。
このまま、オレ、万丈目と一緒に死んじゃうのかな・・・?

「キサマっ!さっさと飛べるモンスターを出せ!」

「えぇッ!?ま、万丈目は持ってないのかよ!」

「おジャマやアームド・ドラゴンが飛べるとでも思っているのか!?」

「じゃッ、じゃあVWXYZ(ヴィトゥズィ)は!?あれ飛べねぇの!?」

「あんなデカイだけのロボが飛べてたまるかぁ!」

「オレのモンスターだって一人しか持てねぇよ!」

落ちているにも係わらず、口論を続ける十代と万丈目。
抱きついた状態の十代を引っぺがし、万丈目はカードをドローした。

「えぇい!もうキサマには何も頼まん!キサマ一人で勝手に落ちていろ!
『V―タイガー・ジェット』と『W―ウィング・カタパルト』を合体し、『VW―タイガー・カタパルト』を合体召喚!」

「うわぁ!ずっ、ずりぃ!なんだよ飛べるんじゃんか!」

今召喚したばかりのVW―タイガー・カタパルトの上に乗る万丈目。
依然として落ち続ける十代は、指差して非難する。

「キサマなんかと心中してたまるか!」

「オレだって死にたくねぇよ!
『E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)フェザーマン』と『E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)バースト・レディ』を手札融合し、
『E・HERO(エレメンタル・ヒーロー)フレイム・ウィングマン』を融合召喚!」

そして十代はフレイム・ウィングマンに抱きかかえられる感じで助けてもらった。
ただ、安心してフゥ、と息を吐いたときに耳に聞こえたチッ・・・という舌打ちの音は聞き逃さなかった。

「万丈目!今、今お前舌打ちしただろ!」

「はぁ?何のことだ?」

「とぼけんな!今絶対舌打ちした!オレが助かった瞬間舌打ちした!」

「なんだ、耳だけは地獄耳だったようだな。」

「何さらりと肯定してんだ!喜べよもっと!」

「何故お前が助かって喜ばなければならんのだ。」

「なんッ・・・あー・・もういいよ。」

肩を落として、目を閉じる。あぁ、楽しい。久しぶりだ、この感覚。
そう思ったとき、トスッという音と共に飛行が止まった。
目を開いたら、崖の上についたらしい。さっきより、空が近く感じる。
上を見上げれば満天の星空。アカデミアで見た空よりずっと、綺麗だった。

「うっわぁ・・キレー・・」

「・・・あぁ。」

声を頼りに万丈目を見やれば、さっきの自分同様上を向いている。
空気が澄んでいて、穏やかな空気。谷から吹き上げてくる風が心地良い。

「この世界にも、こんな場所があるのか。」

そう言ったとき、万丈目が微かに微笑んだ。
オレはそんな万丈目に気付かれないよう微笑みを返し、空を見上げる。
心の、身体の疲れを癒す、美しい景色。

「あッ、見ろよ万丈目、流れ星。」

「ホラ、頭が良くなるように願っておけよ。」

「なッ・・!今は関係ないだろ!?」

「あるな。バカは伝染(うつ)るんだ。」

「ひッ・・酷ぇ!いつものことだけど!」

「フッ、バカにバカと言って何が悪い。」

「バカって言うほうがバカなんだ!」

「テストの点数でオレに勝ってから言うんだな、万年赤点スレスレを取っているくせに。」

「うッ・・・」

・・悔しいけど言い返せない。確かに、万丈目のほうが成績はいいのだ。
万丈目は実技もオレと同じくらいだし、テストは絶対50点以下取らないし。

「フン、だが・・・この景色の中で口喧嘩は、情趣に欠けるな。」

「・・そうだな。」

二人揃って見上げた空は、とても広くて美しくて。
そっと手を繋いでみたら、万丈目は素直に握り返してくれて。
静かで温かくて嬉しくて。星がいつもより瞬いていた。
なぁ、使命を忘れて過ごすこんな日も、たまには良いよな?





                                    <完>






あとがきという名の懺悔

シリアスのつもりだったのに最後の方ギャグと甘で終わっちゃったよ!
実は、シリアスとギャグの間にゲームを4時間挟みまして(アホ
だから話の筋がちょっと変わってるよ・・
いや、大体予定通りに終わったんですが(何なんだ
これ、ヨハンが見たら怒るんだろうな・・(私は十→万←ヨハ派なので・・)
「オレを助けに来てるんじゃなかったのかよ!ていうかドサクサに紛れて万丈目取られそう!?
 早く会いたいよぉ、オレの(←重要)万丈目      !」みたいな(笑)
因みにおまけを書こうか書くまいか考え中。明日香さんとブッキーと翔がミーハーな予定。
まぁ、このまま甘く終わるのもたまにはいいかな、なんて思ったり。