コンコンッ


「はーい。どうぞー。」

雑誌に目を落としながら、ノックの音に返答する。


ガチャッ、


「あれ、珍しいな、こんな時間に。どうしたんだ万丈目?」

「とりあえず、何も言わずに俺にお前のベッドを譲れ。」

「・・・・はい?」



延長歓迎耐久勝負?



「何で、突然?」

「ブルー寮のベッドが恋しくなったからだ。」

なんていう無茶苦茶な理由なんだろう、とか思っちゃいけないんだろうな・・・。
万丈目の家って、相当なお金持ちらしいし。そりゃ、3段ベッドはないよな。

「・・・でもなー、そしたらオレはどうすればいいんだ?」

「じゃあ、俺のベッドを譲ってやろうか?」

俺のベッド  つまりは、いつも寝ているレッド寮のベッド、ってことだ。
たしか十代と同じ部屋の、3段ベッドの一番上だったっけ。

「うーん・・十代と同じ部屋っていうのは好条件なんだけどなー・・」

だって決闘できるし。十代といると楽しいし。けど。

「・・なんだ。」

「万丈目がいないと意味ないよな・・・」

「何故?」

「万丈目が好きだから。」

「・・・・・。」

こういう告白に弱いのは知ってるけど・・うん、そっぽ向くのはないだろう。
せめてもうちょっとこう、可愛い反応返して欲しかったな・・・。

「万丈目、な、オレ達恋人同士だよな?」

「・・・・・・。」

「オレ、告白してから結構経つんだけど。」

「・・・・・・。」

「せっかくだしさ、一緒に寝ない?」

「・・・・・・。」

見事に反応が返ってこない。もう、万丈目ってば冷たいなー。
全無視するか、普通。恋人同士でこの状況じゃ、ほら、一緒にベッドインしかないだろ!

「・・・じゃ。」

「何?」

「ヨハンがそう言うなら、それでいい。」

「・・・・・マジ?」

「あぁ。」

いいんですか。ホントに?ホントにいいの?
10%くらい冗談だったんだけど(つまりあとの9割は本気。)いいの?

「えー・・・っと、うん、じゃ、一緒に寝よ?」

「あぁ。」

あれ?なんでこっちが緊張しなくちゃいけないわけ?
こういうのってほら、オレがリードすんだよね?あれ?
おかしいな、すごいドキドキして、あーダメだ緊張して何も言えない。

「なぁ、ヨハン?」

「え、あ、何?」

「風呂、入ったか?」

「え?いや、まだだけど・・・。」

「俺もまだなんだ、貸してもらってもいいか?」

「いいよ。いいけど、まだ準備して・・」

「なら、俺がやる。」

「いいよいいよ、オレがやるってば!」

「・・・じゃあ、頼む。」

ボスッ、と音を立てて、万丈目は白いソファーに座る。
近くにあったクッションを抱えて持つ姿は・・・うん、可愛い。

「じゃ、準備してくるから・・  っと、その前に。何か飲む?」

「・・・・・紅茶。」

「ん。ちょっと待ってて。」

「あぁ。」

雑誌をローテーブルに置いて、立ち上がり、キッチンに入る。
オレがさっき飲んでそのままだったから、あっちにあるんだよな、ティーポット。
よし、余ってるからその紅茶使って。カップとソーサー温めなくちゃ。
確か、張ったお湯にカップとソーサーつけなくちゃいけないんだっけ・・?
まぁいいや、カップにお湯入れとけば。


コポコポコポ・・・


「あとは待つだけ・・・だけど・・・。」

湯気立つカップを見て、カップが温まるのを待つ。
トントンと、足でリズムを取りながら。そこに。


ピピッ


「へ?」

キッチンから出てくれば、風呂場の電気を消して出てきた万丈目と鉢合わせる。
え、いや、今のって、風呂の湯船の、セットした音、だよな?

「万丈目、何やってんの?」

「分担すれば、早いだろう?だから今、風呂を沸かしてきた。」

「・・・あ、あぁ、サンキュ。」

「ん。」

それだけ言って、またソファーに沈み込むように座って。
お気に入りなのか、クッションを抱きしめて顔を埋める。
それを可愛いな、と思いながら眺めていたら、ティーポットが視界に入って、カップの存在を思い出す。
カップのお湯を捨てて、拭いてからソーサーに乗せて持っていく。

「よっ、と。」

ぼふっ、と音を立てて勢いよく万丈目の向かい側に座って、カップに紅茶を注ぐ。
湯気が出てきて、あぁ、冷めてなくて良かった、と安堵する。
紅茶を注いだばかりのカップを万丈目の前に置くと、頭を少し下げる。
・・・・・お礼、のつもり・・・だよな?

「万丈目、どうしてオレのとこ来たんだ?」

「いや、他意はない。」

「そう?オレは、会いに来てくれて嬉しかったけどな。」

「・・・そうか。」

「なぁ、一緒に風呂も入「嫌だ。」

うわぁ、超即答。ていうか、まだオレ言い切ってないんだけど。
引きつった笑みを浮かべていたら、万丈目はさっき淹れた紅茶に口をつける。
あれ、オレそういえば、何してたんだっけ。

「あ、そこの雑誌、取って。」

万丈目が座ってる側のローテーブルに置いてある雑誌。
そうだ、さっきアレ読んでたんだ、と思い出していたら、万丈目の指が雑誌を掴む。
その表紙を見て、首を傾げる。背景がブルーアイズで理事長が表紙。

「・・・月刊、デュエルアカデミア?」

「うん。」

「・・・・何だそれ。」

「知らない?」

「知らん。」

「じゃ、一緒に読むか?今回は理事長のインタビューがメインなんだぜ。」

「・・・読む。」

クッションを持って隣に座る。カップもこちらに引き寄せて。
渡された雑誌をオレが開くと、覗き込むように顔をこちらに寄せた。

「(万丈目の顔、近いッ・・!?)」

「ヨハン、見づらい。」

「あ、あぁ。じゃ、テーブルに置くか。」

肩の部分に万丈目の顔があるなんて、近すぎて集中できないし、と心の中で呟く。
ガラス板のローテーブルは薄い水色で、理事長って青が好きなんじゃないかな、と思う。
隣で雑誌を集中して読み出す万丈目。その視界にはもはや活字しか映っていない。
オレも視界に映りたいな、とか思うんだけど、でも、こういう時の万丈目は邪魔すると怒るし。

「・・・ヨハン。」

「何?」

「読み終わったか?次のページに、行きたいんだが。」

「ん、あ、いいよ。」

「分かった。」

そうしてページをめくって、また読み始める。
次のページをさりげなくめくる準備をしている白く細い指。
本を読んでいるときの真摯な瞳、長い睫毛は瞬きするたびに揺れる。

「(可愛いよなぁ・・・万丈目。)」

万丈目は勘が良くて、じっと見ているとすぐに気がついてしまうから。
だから、集中して本を読むときだけ、万丈目を観察していられるんだ。

「・・・・・ヨハン。」

「何?」

「この漢字が読めない。」

「へ?・・・えーと・・・?・・わかんない。」

「電子辞書、あるか?」

「あるよ。持ってくるからちょっと待ってな。」

「あぁ。」

立ち上がって、デスクまで歩いていく。いつも辞書をいれている引き出しを引く。
ケースから電子辞書を取り出して、持っていこうとしたその時。


     


「・・・あ、風呂沸いた。」

「どうする?先入る?」

「んー・・もうちょっと、読んでいたいんだが・・・」

「じゃ、コレ貸すから読んでな。オレ入るから。」

「あぁ。」

万丈目はオレから電子辞書を受け取って、また目を雑誌に戻した。
・・・うぅ、なんか負けた気分・・・けど、今夜は一緒だしな。うん。
そう思って、オレは風呂場に向かった。


* * *


・・・どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。
緊張してダメだ眠れなさそうっていうかもうすぐ出てきちゃうし・・。


ガチャッ


きた・・・万丈目が風呂場から出てきた・・・。
覗いてみたら殴られたし(当たり前)開けて質問しようとしたら石鹸投げられたし(痛)
どうしょう、だって二人で過ごす初めての夜だぜ?初夜?(←使い方違う)

「ヨハン、起きてたのか?」

「え?あ、あぁ。」

「先に寝てて良かったのに。」

「でもほら、どっちにしろ部屋暗くちゃダメだろ?」

「・・・あぁ、そうか。」

納得したように言って、万丈目はオレの隣に座る。
風呂上りのピンク色に染まる頬、赤い唇。あぁもうダメかもしれない。

「・・・万丈目。」

「何だ?」

「・・・オレ、もう無理かも・・・。」

「は?」

「・・・ごめん!」

ギュッと隣に座る細い身体を掻き抱いて、ベッドに押し倒す。
驚いて見開いた瞳、怒鳴り散らそうと開いた唇を自分のそれで塞いだ。

「ッん・・・ぁ、ふぅ・・」

「万丈目っ・・!」

あーダメだもう。風呂上りで熱を帯びた肌に、理性なんて吹っ飛んじゃってさ。
パジャマ代わりの黒無地の長袖の服。手を中に進入させて、身体を撫でて。

「ヨハンッ、キサマ何を・・・!」

「言ったろ、もう我慢できないんだよ・・・」

「嫌だっ、やめろヨハン!」

「大丈夫、すぐ気持ち良くあたッ!?」

ゴツッ、て音と共に、拳が振ってきた。頭の天辺に。ちょうどつむじの辺り。・・痛い。
頭を抑えたら拘束していた手がなくなって、万丈目が起き上がる。

「ッな、何すんだよ万丈目!」

「その台詞、キサマにそっくりそのまま返してくれるわ!」

「だ、だって仕方ないだろ、お前が色っぽ過ぎて・・・」

「人のせいにするな!キサマの精神力のなさが原因だ!」

「うぅッ・・やっぱ万丈目は口では勝てないなー・・・」

「次に変なコトしてみろ・・・斬り殺す。」

「・・・・・ハイ。」

どこからか取り出したカードを見せて脅す万丈目。
・・・このカード、側面がカッターになってんだよな・・・一回指先切られたし。
その時は指に貼った絆創膏で、カードがめくりづらかったな・・・。
って、違う違う、そんなことじゃなくて。

「とにかくッ、変な真似はするなよ。」

「はーい。」

掛け布団をバサリと掛け、万丈目はフイ、と反対方向を向く。
あちゃー・・やっぱり怒ってる。・・まぁ、そりゃ当然か。

「・・・おやすみ、万丈目。」

「あぁ。」

部屋の入り口まで歩いて行って、電気のスイッチを消した。
カチッ、という音がして、それと同時に部屋が暗くなる。
窓ガラス越しにぼやけた白い月明かりが、ベッドを照らす。
膨らんでいるそれを見て、あぁいいな、とか思いながら、オレも布団にもぐりこんだ。

「・・・・・。」

「・・・・・。」

互いに無言。あぁ、やっぱ気まずい・・・ソファーで寝ようかなぁ・・・。
二人で寝て丁度良いくらいのベッドなのだから、別に構わないのだけれど。
背中合わせに寝ている状況。隣にいるのに。体温は感じるのに。
・・・やっぱ、ソファーで寝よう。うん、1日くらい、平気だろ。
布団から出ようとしたら、服の裾を掴まれた。

「・・・え、と・・何?」

「どこに行く。」

「え?あ、いや、今日はソファーで寝ようかな、と・・」

「・・・・・だ。」

「へ?」

「嫌・・・だ。」

「え、でも・・・」

「嫌だ。」

グイッ、と引っ張られて、ベッドに引き戻された。否、引き倒されたといった方が正しいかもしれない。
とにかく、オレはベッドの上に仰向けに倒れてる。多分、頭に当たってるのは万丈目の背中。
それがなくなったかと思うと、ゆっくり起き上がってきて、オレの頭の上に万丈目の顔。
ちょうど、オレが万丈目に上から顔を覗き込まれている状態。

「あ、の・・・?万丈目、何か・・・?」

見つめられ続ける視線がなんだかもどかしくて仕方ない。
何か言うのなら早く言って、何かするなら早くしちゃえば良いのに。
そんなことを考えて、瞳を閉じたら、唇に柔かい感触。

「・・・へ?」

すぐに離れていったその感触に、慌てて目を開いたら、まだ目の前に万丈目の顔があった。

「・・・ッただの、おやすみのキス、だからな!」

「あ・・・はい。」

「さ、さっきヨハンからはされたから、だからこれで終わりだからな!」

「・・・うん。」

「さっさと寝るぞ!」

「うん。」

恥ずかしいのか、声を荒げている万丈目。
暗いから分かりづらいけど、絶対今、顔赤い。
布団に入ったら、やっぱりそっぽを向いている万丈目を後ろから抱きしめて。

「おやすみ、万丈目。」

耳元で甘く囁いてみたら、小さい声でおやすみ、って帰ってきた。
自分より少し低い体温の万丈目を抱きしめて、オレはゆっくりまどろんでいった。





                                         <完>






あとがきという名の懺悔

甘い・・・何だこの甘さ・・ありえんぞ。
万丈目さん、立派にツンデレです。すげぇや。
うん、これは私が布団に包まってるときに出たネタ。
すぐ書こうと思ったけど、眠気には勝てませんでした。
睡眠欲には抗えんのですよ、やっぱりさ。
でも素直じゃない万丈目さんホント可愛いな・・・。