旅に出る。そう十代本人の口から聞かされたのは卒業を間近に控えたころだった。
俺はエドに勝利してプロへの切符を手に入れたところで。
俺が驚きで固まったことがよほど面白かったのか、十代は目を瞬かせた。



cadeau de depart



「なんだよ、万丈目?」

「・・・いや、旅・・か、と思ってな」

「おう、旅だ」

一緒にいられるわけねえだろ、だって、オレはもう。
そこで十代は意図的に言葉を止めた。もう、その続きはなんだったのだろう。

「そうか・・・旅、か」

「あ、でも連絡はするからな!」

「え?あ、あぁ」

「テレビもできるだけ見るし、万丈目に会いに行くつもりだし、」

旅に出るとかそんなことで、俺がお前に愛想を尽かすとでも思っているのだろうか。
慌てたように機嫌を取ろうとする十代の口を、クッキーを放り込むことで黙らせる。

「うぐ、」

「せいぜい、ブラウン管越しに俺の雄姿でも見ていろ」

「うーん・・ブラウン管って何だ?」

「・・・テレビを見て、俺の雄姿を目に焼きつけろと言った」

「あぁ、テレビな!うん、見る見る!」

全く!少し文語的な表現を持ち出してくるとすぐこれだ!
(ヨハンですらブラウン管を理解できたというのに!)

「ところで、キサマ・・旅なんてできるのか?」

「うん?まぁ・・ちょっとバイトとかして稼いで、」

「いや、そうではなくてだな、」

「え?じゃあなんだよ?」

「キサマ、自他ともに認める方向音痴だろう、旅なんてできるのか?」

一歩間違ったら飢え死にするぞ、と続けると、十代の顔が青ざめた。
珍しい。十代の顔が青ざめるところなんて、大量の課題の山を見た時以来だ。

「あー・・それはほら、ハネクリボーに・・」

「ハネクリボー、か。役に立つのか?少なくともウチの精霊共は役に立たんぞ」

「・・・・・地図、買うことにする」

「ほう?キサマが地図を読めるとは初耳だな」

「・・・・う、」

気まずくなると目をそらし始めるのが十代の癖だ。
それが顕著なことに苦笑。いじめてやるのもこの辺にしといてやるか。

「そんなキサマに朗報だ」

「え?」

クローゼットの中に入れて隠しておいた、大きなダンボール箱。
万丈目グループの模様がダンボールに印刷されている。

「受け取れ」

「・・・これ?」

「あぁ」

「もらっていいのか?」

「俺がいいと言ってるんだ。・・さっさと開けろ」

「え、あ・・うん」

目を瞬かせて、けれど少々そわそわと嬉しそうにしながら十代はダンボールを開けた。
開けて。目を瞬かせた。そうして少しじっと見つめると、頬が紅潮し出した。
(おそらく、興奮と嬉しさとでだ、理解力とテンションがちぐはぐになっている。)

「これっ・・・パソコン!?」

「あぁ、我社で開発した最新型のパソコンだ」

「え、え、でも、これ、こんなのもらっちゃっていいのか!?」

「い、いいからいいと言っているんだ!」

「でも高いんじゃねえの?パソコンだしだってこれホント、」

「ええいうるさい!人の好意は素直に受け取れ!」

ビシッと、腰に手を当て指を差して十代の言葉を遮る。
これ以上何か言われたら、さすがに嬉しさを、照れを隠しきれない。

「うわーっ、マジかよ、サンキューな万丈目!大事にする!」

「フン、当然だ!俺がくれてやったんだからな!」

あはは、と笑う十代は、パソコンを抱えて嬉しそうに微笑んだ。
GPS機能も付いてるしインターネットも繋がっている、テレビも見られる、
と、少しパソコンの機能について話すと、更に嬉しそうに笑った。

「マジかよ!すっげー!なぁ、これあれ?映画とかにある、砂漠とかでもOKなやつ!?」

「一応、防水加工もされているが・・・」

「すっげー!万丈目グループすっげーな!わー、サンキュ!これで迷わなさそうだぜ!」

「これで迷ったら大馬鹿だ、お前は馬鹿だけどな」

「うわ、ひっでーの。でも、心配してくれたんだよな、サンキュ」

心配。もしもどこか、砂漠や知らない土地でさまよって行方不明になってしまったら。
・・・俺は、お前を、どうやって探してどこへ迎えに行けばいい。
(けれど、心配しているとか好きだとか、そういうのが素直に言えないのが、俺だから。)

「べ、別にお前が心配だとかそういうんじゃなくてだな!」

「え?違うのか?」

「ほ、ほら、お前が迷ったら天上院くんとか翔とかが心配するだろう!」

「あー、そういやそうだよなぁ・・でもさぁ、」

「・・・なんだ」

「万丈目は、心配してくれねえの?」

それはちょっと悲しいかな、好きなやつに心配してもらえないなんて。
そう苦笑した十代は。どこか憂いと、影をその笑顔の裏に隠しているように見えて。
・・あぁ、お前は本当に表情に出やすくて分かりやすくて。

「・・・だから、先手を打っているんだろうが」

「ん?」

「迷わないようにと、こうして・・」

「・・・そうか、そうだよな!」

「そうだ」

「万丈目さ、じゃあパソコンのメアド後で教えてくれよ」

「・・・何故だ?」

「写真とか、旅先で会った面白いこととか、万丈目に知らせたいから」

「・・・あぁ、後でな」

笑った、その満面の笑みが、旅を楽しみにしている、楽しげな、笑顔が。
好きだった、太陽のように俺には眩しくて俺にはできない笑みだから。
そして。そんな表情をされたら、行くななんて、引きとめることなんてできやしなかった。

「・・ところでさ、」

「なんだ?」

「俺、パソコンの使い方よくわかんねーんだけど・・」

さらりと言われたその言葉に絶句して苛立って、そうして。
考えるよりも先にまず十代の頭をはたいて、怒鳴っていた。

「馬鹿かキサマは!この俺がみっちり教え込んでやる!そこに直れ!」

「え、あ、おう、頼むぜ万丈目!」

「万丈目さん、だ!!!」





                                   <完>





あとがきという名の懺悔

映画のネタバレ、になってしまうかもしれませんがとりあえず。
映画で十代がリュックの中にノートPCを持っていて、
「万丈目グループのデータベースにアクセスして、」と言っていた件について考えてみた結果がこれ。
十代がPCを一人で使えるようになるなんて思えないので、
ましてノートPCを買おうと思うかすら危ういので、
おそらくは万丈目さんが餞別として持たせたのだろう、となりました。
そして使い方も教えてもらう十代、自社製品な辺り万丈目もちゃっかりしてます(笑
これ、万丈目さん視点で書いて書き切ったんですがちょっと失敗したかなぁ、と。
いや、内面と言動で万丈目さんがツンデレなのはよく表せたと思うのですが、
十代視点の方が少し面白くかけたかなぁと。リアクションとか、ね。
これでメールとかして連絡取り合えばいいよ!うあー、超書きたいそれ!!
く、くそっ・・・映画は色々と広げたいところありすぎである。