
『亮知ってる?今日、僕の誕生日なんだ』 一年生の時のことだ。当時から女子生徒の羨望の的であった吹雪は、俺の部屋に避難していた。 それで、茶菓子を出してお茶をしていた時にふと、思い出したかのように言った。 『そうなのか。おめでとう吹雪。・・・あいにくなにも用意していないが』 『別にいいよー、今初めて聞いたんだから。あ、亮はいつなの?』 『1日違いだな。明日だ』 『えっ、そうなの!?なんだ早く言ってよー!明日一緒にお祝いしよっ!決まり!』 あまりの偶然に苦笑して、当然のような提案に頷いて。 思い出したように「藤原も呼ぼうよ」と言ってPDAを操っていた吹雪。 毎年一緒に祝おうね、と言ってくれたが、次の年も、その次の年も、吹雪は行方不明だった。 結局、俺の在学中に一緒にお祝いしたことなんて、あのときだけだったのだけれど。 吸血鬼にご注意を。 「もしもし?」 『もしもしー?珍しいね、こんな時間に亮から電話が来るなんて』 時計を確認すればもうすぐ12時を指す頃だ。狙ってこの時間に電話したのだが。 本来、DAで療養中の俺が起きていてはいけないはずの時間である。 「あぁ、ちょっとな」 『何?どうしたの突然』 「いや、お前の声が聞きたくなって。話せるか?」 『もちろん!亮がせっかくかけてきてくれたんだしね!』 弾んだ声でそう返してくれてホッとした。声が聞きたかったのは本当だったからだ。 学生時代に恋人という関係になって、もう数年経ったが吹雪はいつまでも変わらない。 そういえば、先ほどふと思い出したあの時の言葉はまだ有効なのだろうか。 「・・・吹雪、1年の時のことを覚えているか?」 『うん?どれのことだい?』 「1年のハロウィンだ」 『ハロウィン?うーん、あぁ覚えてるよー亮の部屋でお茶したねえ』 そう言った吹雪は、本当はどこまで覚えているのだろう。 はぐらかしているのが計算なのか本気なのかがわからないのが吹雪だ。 こんなとき顔が見られたら分かるのだが、と思うが叶わないだろう、吹雪は海の向こう側だ。 もしかして覚えているのは俺だけだったのだろうか、と思って時計を見返したらあと数秒で12時だった。 「3」 『え?なに?』 「2」 『何のカウントダウン!?えっ、亮?』 「1」 『なっ、何・・・』 「0だ。誕生日おめでとう、吹雪」 『えっ』 いつもなら饒舌に喋りはじめるはずの吹雪から言葉が返ってこなかった。 不思議に思って首を傾げていると、あっ、と小さく声がした。 『ありがと・・!え、まさかこのためにわざわざ!?』 「あぁ、そうだ。一番最初に祝えたか?」 『も、もちろんだよ・・!うわあ、亮が一番最初に僕の誕生日を祝ってくれるなんて・・!』 「そんなことで感動するなんて・・・俺をなんだと思ってるんだ?」 『いやぁ、君ってほら、そういう行事に疎いじゃない?』 「失礼な、お前の誕生日くらい把握している」 『分かってるよ、うんありがと。好きだよ亮』 「あぁ、俺も好きだぞ吹雪」 クスリと、電話越しに上機嫌に笑う吹雪につられて笑っているのが自分でもわかる。 吹雪はいつも俺に笑顔をくれるのだ、それが打算や計算なしだからなおさらすごいと思う。 「・・・今どこだ?」 『そうだね、歩いて移動中だよ』 「そうなのか?大丈夫なのかこんな時間に出歩いて・・・」 『平気だって。僕、子供じゃないんだよ?』 「いや、そういう意味ではなく最近は物騒だし・・それに電話をしていて・・」 『大丈夫だよ、もうすぐ着くしね』 「そうか」 『亮、もしかして僕に会いたかった?』 ふふっ、と笑いながらそう聞かれ、言葉に詰まった。 会いたくないと言えば嘘になる。しかし素直に言うのはなんだか悔しい。 ・・・ここ数年で、俺も意地が悪くなったのかとふと思う。 しかし恐らくそう変わったならばそれは吹雪による変化なので、甘んじて受けることにしよう。 『沈黙は肯定ととるよ?』 「ふふ、どうだろうな」 『あ、もうそんなこと言って。本当は会いたいくせに』 「会いたいと言ったら・・・会いに来てくれるのか?」 『もちろん。動けない眠り姫にキスしに行くよ』 「ふふっ、じゃあ、会いに来い」 『わかった』 それと同時に、俺の部屋の扉が開いた。暗い廊下から現れたのは黒づくめの男。 正確に言うならば―そう、フリルのついたシャツに黒いスーツ、裏地が赤い黒マント。 「トリックオアトリート!会いに来たよ!」 「・・・・えっ」 俺が驚いたのはそれが吸血鬼だったことではなく。 その服装をしているのが、本来ならここにいないはずの人物だったためだ。 「ふ、吹雪・・・?」 「恋の魔術師にかかれば、海なんてひとっ飛びだよ☆」 そう言って近寄ってきた吹雪は、通話していた電話を切ってポケットにしまう。 ベッドで起き上がっていた俺のそばまで来ると、ニッコリ笑ってもう一度繰り返した。 「トリックオアトリート!僕の誕生日はハロウィンだよ?」 「あ・・・あぁ、そうだな・・」 「お菓子、くれないと悪戯しちゃうぞ?」 ニタリと笑う吹雪は、俺がお菓子を自分からあまり買わないことを知っている。 そして病室にいるようなものだからお菓子などここにはないのだと知っている。 つまり、俺は嬉しそうな吹雪にこう言うしかないのだった。 「・・・ここにそんなものはない」 「じゃあ悪戯だね!」 近づいてきた顔にそっと目を閉じれば、額にキスが落とされた。 てっきり唇にするものだとばかり思ったから目を開けると、 ベッドに腰かけた吹雪がするりと俺の頬を撫でた。 「唇にされると思った?」 「っ・・・!」 一瞬でも期待してしまった自分、それを悟られてしまって悔しい。 気まずくなって目を背ければ、吹雪は耳元に口を寄せた。 「毎年一緒に祝うって約束したでしょ?」 「・・・覚えていたのか」 「当たり前でしょ?恋の魔術師だもん、恋人との約束は忘れないよ」 にっこりと笑う吹雪に、覚えていたのは俺だけではなかったのだという安堵と。 プロリーグにいるはずなのにわざわざ会いに来てくれた喜びとが綯い交ぜになって。 それを悟られないように、意地の悪い返事をするのが精一杯だった。 「・・あの時はまだ恋人ではなかったがな」 「まぁまぁ、でも今は恋人でしょ?」 「・・・あぁ」 「それで?」 「なんだ?」 「トリックオアトリート。お菓子はもらえるのかな?」 「そんなもの、ここにあるわけ・・・」 「じゃあ、もらっちゃおうかな」 「え?」 今度こそ、不意打ちで唇に落とされたキスに目を瞬かせる。 唐突過ぎて、目を閉じる余裕なんてものもなかった。 「吸血鬼っていうのは夜に来るもんでしょ?今夜は寝かせないよ?」 「吹雪・・・」 思わず嘆息しかけたが、誕生日を祝っておきながら自分がプレゼントを用意していないことに気がついた。 まぁ、当日どころかしばらく会えないと思っていたのだから当然なのだが。 つまり、渡せるものなんてここには一つしかないと悟って、吹雪の首元に腕を回す。 「ん?どうしたのかな、亮くん?」 「あいにく、お菓子も誕生日プレゼントも用意していないんだ」 「うん、それで?」 「・・・柄ではないがな。プレゼントは俺でどうだ?」 その言葉に目を瞬かせ、それからクスリと上機嫌に吹雪は笑った。 そっと腰を引き寄せる腕、頬に唇を落として、本当に柄じゃないねと笑う。 「もちろん頂くよ、最高のプレゼントだ」 性急なキス、目を閉じてそれを甘んじて受ければ、ベッドに押し倒された。 目を開けば天井とどこか妖艶に微笑する吹雪。久々の景色に俺も思わず笑い返した。 <完> あとがきという名の懺悔 吹亮の誕生日だひゃほー!と思って書き始めたのはいいものの、 結局当日までに書きあがらず放置してしまっていたものでした。 まぁ、放置したのも行き詰ったとかそんな理由でなくただ単に書くのに疲れtげふん。 そんなわけで久々に書けばまぁイチャイチャと・・・吹亮ほんと可愛い。