
つまらない毎日。
ただ権力を表すだけの広い宮廷。
僅かな自由と楽しみは、友との会話とささやかな悪戯。
その頃出会った君は、何よりも輝いて見えたんだ。
あのナイルに沈む夕日でさえも、霞んで見えてしまうほどに。
笑顔の理由
「…なぁ、どうしても行かなきゃダメか?」
「当たり前です。次の授業は文学についてですよ?
それにいずれ、王子にはこの国を治めてもらわなければならないのですから。」
そう言ったのは隣で魔術の書を抱えたマハード。
マナは自主学習(という名のサボり)だそうだ。
「けどさ―…ほら、やっぱオレだって少しは休みたい…」
「王子、さっきまで逃げ回って自由な時間だったでしょう?
全く、玉座の裏なんかに隠れて…」
「仕方ないじゃん、兵士達が近寄れないのってあそこだけだし?」
「さらりと返さないで下さい…」
「つかマハード、畏まらなくったって良いんだぜ?二人ん時くらい敬語はやめろって。」
「いえ、ですが私はただの魔術師ですし…」
「い―んだってば、そん位!オレとお前は小さい頃から一緒だったろ?」
「そうですが…でもあなたは王子で…」
「じゃあ王子として命令!二人…いや、マナと三人で居るときも…オレには敬語使うな!」
「えッ…いや、それは…」
分かってる。それは自己満足なんだってことぐらい。
けれど、やはり敬語で話されるのは、正直あまり好きではなかった。
いつも一緒にいるからこそ、マハードには普通に接して欲しかった。
「はぁ…じゃあ、とりあえず努力します…」
「よしッ!ところで、次は文学史だったよな?」
「はい、そうです。」
「じゃあマハードが頑張るならオレも頑張って寝ないようにするから。」
「はい。」
笑顔で返事をして、マハードは丁度着いたオレの勉強部屋の前、手を軽く振って去っていった。
ガチャッ
「おぉ、待ち侘びておりましたぞ、王子。また逃げ出したのかと思っておりました。」
「アハハ…いや、あの…」
「さぁ、お勉強の時間ですぞ。どうぞ中へ。」
シモンの手によって開かれた扉。オレは大人しく入っていった。
* * *
「…はぁ……終わった…」
長い話を眠気と格闘しながら聞き、テストまで出されても文句も言わなかったし。
「マハード…オレ、ちゃんとやったぜ…!」
とりあえず、マハードに報告し(いや、この場にマハードはいないんだけど。)部屋を出る。
さっき使った勉強道具を持って、廊下を歩いていく。
「えっと…」
階段を降りながら思い出す。今日習ったところで、明日テストがあるらしい。確か、詩だったような気が。
「ん―と…?」
眠気と戦いながら聞いていたから、あまり内容を覚えていない。
「…ダメだ、後でマハードに聞きに行こう…」
さっき別れた後、確かマハードは修業場に行くと言っていた。
魔法の練習は、失敗すると自分だけでなく辺りにも被害があるから来るなとマハードに言われている。
「(別に、魔法の失敗なんてマナのおかげで慣れてるのに…)」
分かってる。マハードは単に自分が失敗するところを見られたくないだけなのだ。
「さて…どこで勉強しよう…?」
テストは追試があるとシモンが言っていた。ということは一回で合格しなければならない。
「部屋だと多分寝ちゃうしな…」
考えながらふと横を見れば、裏庭が見えた。
蔦の巻きついたアーチをくぐり、迷路のように配置された花壇の横を通ってベンチに座る。
日光を遮るように立つ木の下にあるベンチは涼しい。
「あ―、涼しいな…」
日光を浴びて咲き誇る花壇の花々。裏庭の真ん中にある噴水。
木陰の下、涼しげに在る池には蓮の花が咲いている。
「あ―…いいなぁ、こーゆーの…」
目を閉じれば、涼しい風が吹いてくるのをひときわ肌で感じる。
そういえば、自分はここに勉強をしに来たのだったと、瞳を閉じた暗闇のなか思い出した。
「そうだ、やらなきゃ。」
そしてさっきまで持っていた教科書を開いてみる。
が。
「……わかんねぇ…」
本の内容は、何が言いたいのかさっぱり分からない。
しかも授業中に書いた文字は、ただでさえ下手なのに眠かった所偽で素晴らしい芸術と化していた。
「最初から始めないとかよ…ハァ。」
分からないものは仕方がない。
そう理由をつけて、オレは伸びをして木を見上げながら目を閉じた。
* * *
「ん………?」
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
「…起きたのか。」
「へ?」
吸い寄せられるような青い瞳。気品を漂わせる仕種。
そして整った容姿とを持ち合わせた謎の少年。
同じ歳くらいで焦げ茶の肌。肌よりも濃い髪はサラサラと風で靡く。
「え…っと…誰、だ?会ったこと、なかった…よな?」
「あぁ。お前とは初めて会った。」
少しばかり呆けていたけれど、重要な事に気がついて思わずベンチから立ち上がった。
「ここ、王宮だぜ?なんで ?」
「父様が、仕事をしていらっしゃるんだ。」
「王宮で?へぇ…それで、待ってるのか?」
「あぁ。」
「んじゃあさ、勉強わかる?文学史なんだけど。」
「……?まぁ、大低は。」
「教えてくれると助かるんだけど…明日テストでさ。」
笑顔で尋ねたけれど、その少年は少し俯いてから、考えて。
「多分、大丈夫だと思う。内容を見なければ、わからないが。」
「マジで!?サンキュな、で、コレなんだけど。」
「えっと……」
暫く無言の時間が続く。少年は、文章に目を通し終わると。
「この本は…、前に一度、読んだことがある。」
「本当か!?」
「多少のことなら、教えてやれると思う。」
「うんうん、教えてくれ!」
少年は微笑むと、オレの為の特別講義を開始した。
* * *
「…ということ。分かったか?」
「あぁ。ここは、作ったヤツの心情が描かれてるんだよな。」
「そう。覚えが早いんだな。」
「違うって、教え方がうまいんだよ、お前の。」
そこで、ハッとした。あれ?コイツの名前って …?
「なぁ、お前の名前まだ 「あ!」
「え!?な、何!?」
「すまないけど、日が沈む前に帰らなければいけなくて…」
「え、えと、ちょっ…」
「また今度…次は勉強じゃなくて、一緒に遊ぼう。」
夕焼け空と、君の笑顔と、手を振りながら言われた、優しい台詞。
ニッコリと笑いかけられた顔が、とても綺麗だったから。
なんかまた、会える気がした。
「またな!」
手を振り替えして、笑い返す。満足そうに少年は微笑んで、走っていった。
そしてアーチを抜けて、レンガで出来た塀に向こうに消えてしまった。
「……また、会えるよな。」
ボソリと呟いて、オレはベンチに座った。
すると、少年が消えた反対側から、マハードが入って来て。
「あ、王子!どうしてここに?」
「ん?勉強教えてもらったんだ!」
「そうなんですか、珍しい。誰にです?」
「ん?内緒。」
「……内緒、ですか?」
「おぅ、内緒。」
マハードは目をパチパチしたけど、すぐに笑顔になって。
「じゃあ、聞きません。それに。」
「それに?」
「王子、今すごく楽しそうですから。」
マハードは笑って、オレの隣に腰掛けた。
そして今日の修行について、語り始めたのだった。
けれどその後、オレがその庭園で、少年を見かけることはなかった。
<完>
あとがきという名の懺悔
久々だ・・・つぅか遊戯王本当久しぶりだ。
見てるケドね、再放送。ヴァロンがまさか亮兄さんとは。
恐るべしテレビスタッフ。ていうか気がつかなかった私。
・・・そろそろ作品の感想を言いますデス。
これはファラセトの初対面話。名前を知るのは十数年後。
セトが、王宮でアクナムカノンの代の六神官に選ばれるとき。
新しい神官と王子の引き合わせの場面です。
けど、多分互いに気付かないんだろうな、うん。
そういうのもイイです。ていうか設定細かいな。
・・・書く気はないですけどね。ネタに行き詰ったら書きます(オィ
それではお粗末でした。