「やはり、着慣れないものは、その・・」

「何を言ってるのよ兄さん、似合ってるわ」

いつもの裾の長い服ではなく、紫色の浴衣を着た斎王は送り出す美寿知を振り返った。
心配そうな兄に対し、満面の笑顔を浮かべる美寿知は斎王の背中を押す。

「けれど美寿知・・」

「いいからいいから、ほら、エドが待ってるわよ!」

「・・・でも、こ、この格好でかい?」

「そうよ、何のために着付け手伝ってあげたと思ってるのよ!」

「あ、うん・・そうだね、わかった、行ってくるよ」

カラン、と黒い下駄を鳴らして、斎王は半ば諦めたように歩き出した。
美寿知は笑顔でそんな兄の背中に手を振った。
そうして、エドと待ち合わせた場所へと斎王は歩き出した。



浴衣と氷と夏祭り



そもそも。何故斎王が浴衣を着て歩いているのかといえば。
妙にミーハーなエドが近くの大きな公園で行われる祭りのチラシを発見したことから始まった。

「斎王!斎王見てよ!お祭りだって!」

「そうか、もうそんな時期だね」

「あ、ほら開催日見て!最終日、夕方までに仕事終わる日だよ!」

「そうだね」

「行こうよ!ね!」

「そうだね」

「やった!」

・・・あれ。今自分は何て言った?お祭りに行くのに許可を降ろさなかったか?
人込みがあまり好きでない上に人をあまり信用しないという長年の癖で、
そういう外で大勢が集まるイベントやお祭りなどは、自分から避けてきたのに。
しかし斎王が気付いたときには既に遅く、エドはきゃっほう!とか飛び跳ねて喜んでいる。

「・・・エド」

「大丈夫!夕方までだから!充分間に合うよ!」

「え、あぁいや、」

「ねぇ、どうしようか、斎王こういうの初めてだよね?」

「そ、そうだ、ね・・」

テンションが上がりまくったエドに、今更行けない、なんて言えない。
ましてや、これは自分のワガママなのだ。単に人ごみが嫌い、というだけの。
たったそれだけの理由で、エドの嬉しそうな笑顔を奪っていいものか。
・・・お人よしの(それもエドにはめっぽう甘い)斎王にとって、その答えは否だった。

「屋台の焼きそばと、カキ氷は定番だよね!」

「え?そ、そうなのかい?」

「フランクフルトとか、たこ焼きとか、たまにはそういうのもいいよね」

「そ、そう・・だね」

もはや行く行かない以前の問題だ、既に前提条件として行くことが決定している。
(しかもここまでテンションが上がったエドに説得が通じたことはほぼ皆無だ)

「僕は夕方まで掛かるけど、斎王は昼まででしょ?」

「そうだ、ね」

「じゃあ、先に帰って準備しててよ!ね!」

「う、うん・・わかったよ」

「えへへ、楽しみだねぇ斎王」

「そうだね」

満面の笑みを零すエドに引き攣った笑みを返した斎王だった。
しかし、そんな斎王の心情も気にすることなく、1週間も先の祭りへとエドは思いを馳せるのだった。



* * *



1週間前の出来事を思い出し、そっと溜め息を吐いた。
そして昨日、美寿知に祭りに行くのだということを告げたら、
どこから持ってきたのか、浴衣を持って家に上がりこんできたのだった。

「・・・下半身がスースーするよ、美寿知・・」

正直、エドに言われた祭りの準備というものが分からなかった斎王は、
美寿知の「祭りといえば浴衣って相場が決まってるのよ!」という発言に、
いいように丸めこまれて着付けされ、結局街中へと放り出されたのだった。

「美寿知はいつもこんなような服を着ているのか・・お腹が冷えないのかな・・」

そんなことを薄ぼんやりと考えていると、突然背後から衝撃があった。
衝撃というか、突撃されたようなというか、抱きつかれたというか、とりあえず。

「突然どうしたんだい、エド?」

「えっ、どうして分かったんだい!?」

「・・・私に後ろから抱きつく知り合いは君しか居ないんだ」

「そうか・・それは考慮してなかったな」

「それでどうしたんだい、いきなり。外で過剰接触はしない約束だろう?」

「だ、だって、斎王が浴衣着てたから、ついその・・・ごめん、」

しゅん、と俯く幼馴染兼恋人を見て、斎王は苦笑しながら頭を撫でる。
こういうときいつも、エドには弱いなぁ、とひっそり斎王は感じるのだった。

「別に構わないよ、怒っているわけじゃないから」

「ほ、本当かい?」

「あぁ。今度から気をつけてくれればいいから」

「わかったよ、斎王!」

エドはいつものスーツ姿ではなく、一昨年買ったのだという薄青い布地の浴衣を着ていた。
そんなもの、引越しのときにあっただろうか、と考えていると腕を引かれる。
くるりとこちらを振り返ったら、軽く結ってあった後ろの髪が揺れる。
・・・さすがに有名人だから、せめてもの変装だろうか。

「ほら、何がいい?なんでも買ってあげるよ」

「はぁ・・・そういわれても、私は・・」

「どうかした?」

「こういう・・その、お祭りはあまり、来たことがなくて」

「・・・じゃあ、僕がリードしてあげるよ!」

ニッコリと笑ったエドは斎王と手を繋いで引いた。
少し焦りながらも、引かれるままについていく斎王。

「エド、その、手・・」

「手、繋がないと迷子になっちゃうよ。安心して、斎王は僕が守るから」

「あ・・・あぁ、」

一体、何から守るというのだろう。よく分からないながらも手を引かれるまま。
エドは露店をキョロキョロと見回し、くるりと斎王を振り返った。

「斎王、お腹空いてない?」

「・・・少し」

「焼きそば、たこやき、カキ氷、ポップコーン、りんご飴、どれがいい?」

「じゃあ・・・カキ氷」

「よし、じゃあカキ氷食べようか」

ずんずんと人ごみの中を進んでいくエド。それについていく斎王。
これではどちらが保護者なのか分からないな、と斎王は苦笑する。
迷子にならないように手を繋ぐ、なんて、何年ぶりだろうか。

「斎王、イチゴとメロンとレモンとブルーハワイと宇治抹茶、どれがいい?」

「・・・何がだい?」

「カキ氷に掛けるシロップだよ」

「じゃあ、レモン」

「僕はブルーハワイでお願いします、2つ」

頭にタオルを巻いたお兄さんは、はいよっ、と陽気にオーダーを取った。
カシャカシャと氷が削られて、発泡スチロールの器に山になっていくのを見ていた。
シロップを掛けられたら氷の山が青と黄色になって、プラスチックのスプーンが刺される。

「はい、斎王」

「・・・ありがとう」

手渡されたエドは軽く頭を下げると、斎王に黄色い方を手渡した。
それに素直に礼を言って、屋台から離れる。随分と、後ろに人が並んでいた。
カキ氷を受け取ったときに離れた手は、またそっと繋がれた。

「どこか、座って食べられないかな」

「さぁ・・どうだろう」

「人、多いね」

「そうだね」

「この辺でいいかな」

公園の端に寄って立ったままサクサクと食べ始める。
甘ったるいシロップの味、冷たい触感、口の中で溶けていく氷。

「おいしい?」

「あぁ、おいしいよ」

「一口ちょうだい」

「かまわないよ、交換しようか」

「うん」

レモン味を掬ってエドに食べさせてあげると、ニッコリと笑った。
エドも、一口掬って食べさせた。斎王も目を細めて笑う。

「なんだか、」

「うん?」

「綺麗な青だね、ブルーハワイ」

「そうだね」

「・・・エドの、目みたいだ」

「僕の?」

「エドの目はもう少し濃いけど、いつもキラキラしてるから、綺麗だと思うよ」

「ふふっ、ありがとう。斎王の目も、深みがあって僕好きだよ」

「・・・ありがとう」

端に寄って、二人で談笑しながら食べたカキ氷はすぐになくなってしまった。
なんとなく物足りなさを感じていると、またエドに手を引かれた。

「次は何がいい?ねぇ、射的とかもあるんだよ」

「射的は・・当たりそうにないからいいかな」

「そう?じゃあ他に何か食べる?」

「えっと・・定番は、焼きそばなんだっけ?」

「そうだよ、あとたこ焼き」

「じゃあ、たこ焼き」

「うん、じゃあ行こうか」

妙に楽しそうに歩いているエドの後姿を見ながら、斎王は苦笑する。
いつもこうなら年相応に見えるのになぁ、とぼんやり考える。
辺りを見回せば、射的やら輪投げやらくじ引きやらあんず飴やらの屋台が並ぶ。
色とりどりの屋台に群がる子供や親子、すれ違う子供もはしゃいでいる。
たまには、こんな風に出かけるのもいいかもしれないな、と斎王は思った。

「楽しい?」

「そうだね、面白いと思うよ」

「僕も楽しいよ、斎王」

年相応の笑顔を浮かべるエド。ほら、いつもそうやってしていればいいのに。
プロとして決闘している最中も、勝ったときも、妙に勝気な笑みを浮かべるだけで、
こんなにも子供っぽい、優しく嬉しそうな笑みは浮かべない。
そんな笑顔を見られるのも、ある意味特権か、と苦笑する。

「本当はね、嫌がるかと思っていたんだけど、」

「私が?」

「そう。でも、どうしても行きたくて。斎王とお祭り」

「どうして?」

「ほら、いつもは僕のスケジュールで振り回してしまっているから、」

「私は気にしていないよ、それも私の仕事だから」

「一緒に楽しめる場所に行きたかったんだ」

きょとん、と首を傾げる斎王に、エドは妙に真剣な表情で言った。
道行く人は通り過ぎるだけで、次々の視界の端から消えていく。
いつの間にか、公園の真ん中で立ち止まっていた。

「でも、君はその・・ほら、普通のデートじゃ、楽しめないかなって」

「普通のデート?例えば?」

「その・・遊園地とか、ショッピングとか、そういうの」

「・・確かに、そうかもしれないね」

自分がその場にいる時点でもう、既に違和感を覚える。
想像ですらそうなのだ、実際に行ったら完全に浮くに決まっている。
苦笑した斎王に、けれどエドはまだ真剣な表情のままだ。

「だから、こういうお祭りだったら楽しめるかなと思ったんだけど」

「そうだね、楽しいよ。エドと一緒だからかな」

「・・・僕は、斎王と一緒ならどこでだっていいんだけど」

「連れてきてくれてありがとう、エド」

お礼と共に頭を撫でると、照れたように笑う。
頬が染まっているのはきっと気のせいじゃないけど、指摘しないでおこう。
くるりと後ろを向いて、エドは歩みを再開させる。それに再びついていく斎王。

「たこ焼きと、焼きそば買ったら家に帰って食べよう」

「別に私は良いけれど・・・エドはそれでいいのかい?」

「いいんだ。だって、道端でイチャイチャしたら斎王は嫌がるし」

家に帰ってイチャイチャしたい、と遠まわしに言われているのに気がついて、
斎王はその可愛らしい発想に苦笑した。それに気付いたらしく、エドが振り向く。
いじけるだろうエドに弁解しようと思って開いた、その唇が塞がれた。

「・・・エド?」

「早く帰って、こういうこともしたいし」

「・・・ふふっ、わかったよ」

手を引いてまた先に進もうとして、エドが後ろを振り返る。
きょとん、として首を傾げる斎王に、エドは目線をあわせて言った。

「・・ずっと言い損ねてたけど、」

「・・・?うん」

「斎王、その浴衣似合ってるよ。すごく、綺麗だ」

「ありがとう。私もエドの浴衣姿はとても似合うと思うよ」

「・・・ありがと」

顔を赤らめてお礼を言うと、エドは手を握りなおして引っ張った。
態度は素っ気無いけれど、照れているのだと分かっている斎王は苦笑して、
エドに腕を引かれるままについていった。もちろん、手をそっと握り返して。





                                     <完>






あとがきという名の懺悔

はい長かった・・・!すごく長かった・・・!
何だコレ、なんですかこれ、この長さびっくりだよ!
もうね、最初はカキ氷と焼きそばとたこ焼き食べて終わるはずだったんだけど。
いつまでたっても終わらない。カキ氷までがすごく長いと思う。
しかも最終的にカキ氷しか食べてないっていうね!
浴衣着た斎王描いたら妙に書きたくなって、夏祭りのお話。
何も計画立てずに書いた結果がコレだよ、なんだよすごい甘いよ!
外でイチャイチャするなとか言ってますけどお前ら既に雰囲気が甘いんだよ!
誰かそういうところをツッコんでくれる人がいないと、ウチのエド斎はずっとイチャつくよ!←
同棲設定ですが、どうですかね・・・?美寿知はサポートにきてくれたよ!(笑
エド斎はプラトニックでもいいんだが、ちょこちょこキスさせるくらいはいいかなぁと。
家に帰ってイチャイチャするとかキスして「こういうことしたい」とか言ってますが、
実際に帰って何をするとか何も考えてないぜ!(ドン☆←
ゆ、浴衣プレイとかそんな破廉恥なこと考えてないんだからぁ!(おま
そういうわけであとは皆様のご想像にお任せいたします。