
「ホワイトクリスマスには、ならなそうだな。」
突然押し掛けてきたヤツは、部屋の窓ガラスから空を見上げて言った。
本を読んでいた俺は、しんとしていた部屋に響いたその声に顔を上げる。
「突然なんだ。」
「いや、そういえば雪って見たことないなって思ってさ。」
そう言いながらベッドに腰掛けたヒトデ頭がそういうものだから。
とりあえず、クリスマスに約束を取り付けてやった。
white christmas
低音なジェット音と、エンジンの軽い振動。
目の前には青い空と海がガラス越しに広がる。
「なぁ海馬ー?」
「何だ。」
「いいのかよ、会社休んで。」
「構わん。」
凡人がつまらない心配をするな、と続ければ、安心したように笑う声が聞こえた。
(モクバが座っていた前の席に遊戯が座っているので、その表情は見えないが。)
「大体、貴様が雪が見たいなどとほざくからだな・・・」
「分かってるよ、俺の願いをかなえてくれるんだろ?」
・・・厭味なくらい余裕ぶった態度に腹が立ったので、一回転してやった。
ゴツッ、という鈍い音。それと共に痛がる声がした。・・少しスッキリした気がする。
「痛いぜ海馬、何で突然一回転ターン決めるんだよ。俺の席の後ろ側は鉄なんだぞ?
全く、ただでさえこのブルーアイズジェットはコクピットが狭いのに。」
「そんなことは当然知っている。設計者が誰だと思っているんだ貴様は。」
「・・・海馬?」
「当然だ。海馬ランドのアトラクションも全て原案は俺が設計したものだぞ。」
「(あぁ、だから海馬ランドの乗り物が全部ブルーアイズに・・・)」
「・・何だ貴様、急に黙り込んで。」
「・・・何でもない。」
「フン、まぁいい。この俺とクリスマスを一日過ごせるのだ、光栄に思え。」
「あぁ・・・そうだな。」
・・・なんだか少し、大人しすぎやしないだろうか。静か過ぎるような気がする。
いつもならここでクサい台詞の一つや二つ、頼まなくとも煩いくらいにペラペラと出てくるはずなのに。
「・・・海馬。」
「何だ。」
「礼を言うぜ。」
「・・・あぁ。」
「オレのさりげない一言で、忙しいのに会社休んでくれたりとかさ。
よし、今日はゆっくりイチャイチャしよーぜvvv」
「・・・・フン。」
前言撤回。やはりコイツはいつもの海から這い上がってきたレインボーヒトデだった。
前に座った遊戯がこちらを振り返る前に、もう一回ターンを決めてやった。
* * *
「着いたぞ。」
一面の銀世界。口から吐く息は白くて、済んだ冷たい空気に溶けていく。
「・・・寒いな。」
「当然だ。アラスカだからな。」
「アラスカってどこだよ・・・」
白い息を吐きながら真面目に考え込む遊戯。
・・・普段、いかに勉強不足かがうかがえる瞬間だ。
「・・・アメリカだ。」
「アメリカ?でもこの前来たときはこんなに寒くなかったぜ。」
「・・・・・。」
恐らく、海馬ランドで主催したデュエル大会のときのことを言っているのだろう。
バカなのかアホなのか天然なのか、一言悪態をつくべきかどうか迷ったが、とりあえず説明を入れてやる。
「日本よりも北だからな。」
「えーっと・・・エジプトよりも北に日本があって、それよりも北ってことか。」
・・・どうやら、俺は失念していたようだ。
コイツの馬鹿さ加減がハンパではないことと、そしてコイツが三千年前のエジプトの王だということを。
「そうか、北だから寒いのか・・・沖縄と北海道みたいなものか。」
事実だから受け流しておいたら、いつの間にか間違った解釈の仕方をしていた。
・・・まぁいい、とりあえず寒いこともここがアメリカだということも理解できたようだし。
後ろに立っている俺の別荘に歩みを進めると、唸っていた遊戯がこちらを向く。
「海馬?どうした?」
「中に入るぞ、寒い。」
「やっぱり海馬も寒いのか。」
・・・お前は俺を何だと思っているんだ。
* * *
暖炉のついた暖かい部屋で、向かい合いながら紅茶を飲む。
窓の外から見える、庭と一面の銀世界は美しいとしか形容しようのないほどだ。
「よし、後でかまくらでも作るか。」
「何故かまくらなんだ。」
そんなマイナーなところから攻めなくとも。雪だるまじゃ嫌なのか。
「かまくらの中で、もちを七輪で焼いて食べるんだ。」
「どこから入手したんだ、その間違った知識。」
「間違ってるのか?城之内くんに聞いたんだが。」
やはりあの凡骨か。余計なことを教えやがって、今度会ったらパーフェクトデュエルを完遂してやる。
(※パーフェクトデュエル・・・ライフポイントを一度も削られることなく相手を倒すデュエルのこと。)
「いや、あながち間違ってはいないが・・・。」
「じゃあ、合ってるのか。」
いや、まぁ確かによく描かれる風景だが、あれは七輪の熱で雪が溶けると思うのだが。
大体アラスカに餅はなさそうだし、しかも雪が溶けたら天井から水滴が落ちてきて不快だし。
「それじゃその後は雪うさぎだな。」
「だから何故そうマイナー路線を突っ走るんだお前は。」
大体、アラスカ州でヒイラギがそう簡単に見つかると思うなよ、遊戯。
それに赤い目は紅眼の黒龍を思い出して不快だし。
「雪うさぎ作った後はそりすべりかな。」
「また貴様はマイナーな・・・」
あくまで雪だるまは作らないつもりか、遊戯。
何かトラウマ的なものでもあるのか。意図的に避けているような気さえするぞ。
「海馬を後ろに乗せて二人ですべって転んで雪まみれになるんだ。」
「そこまで計算ずくか。」
転ぶのは嫌だぞ。痛いし雪は冷たいし服の中に雪が入ると溶けて冷たくて不快だし。
「それで最後に二人で雪だるま作るんだ。」
「・・・何故あえて最後に雪だるまなんだ。」
「だって、最後に作ったらかまくらよりも雪うさぎよりも長く残るだろう?
俺達二人の共同作業だぜ!?なんか新婚みたいでいいじゃんか。」
・・・恥ずかしいヤツめ。そんな楽しそうな顔をされたら断れんだろうが。
「・・・・・がいい。」
「は?海馬、今なんて言った?」
「雪だるまよりもブルーアイズの氷像がいい。」
「難しすぎるだろそれ!」
「・・じゃあ究極龍騎士だ。」
「難易度上がってるから!」
喚く遊戯を見ながら、紅茶を啜る。たまには、こんな休日の過ごし方もいいか。
まぁ、イエス・キリストもサンタクロースもクリスマスも、全く関係ないけどな。
<完>
あとがきという名の懺悔
1日すぎちゃったけど久しぶりの闇海でクリスマス!
でも最後に社長が思いっきり本音吐いてるけどな!
いや、最初は遊戯が雪を見たいと言い出したのが始まりなんだ。
頭の中でクリスマスネタをさがしてたら遊戯王で雪って見たことないなって気がついたんだ。
というワケでもうクリスマスネタの常識をほぼ覆して(というかないと思う、こんな小説)
いっそもう雪しかないじゃんか冬の代名詞というような感じ。
雪遊びについては貧相な管理人の所為で普通のものに。
マイナーな順に並べてみましたがどうでしょうか・・かまくらとか普通作らないだろ。