不完全な満月 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 第三幕 『名も無きメイド』

 

 



「分かりました、紅魔館のメイドやってみます」  



そう言ってから一週間が経った。    
先輩の妖精メイドに教えてもらって掃除やお嬢様(レミリア)の周りのことについて雑務をテキパキとこなした。 
忙しい時は時間を止めて掃除をしたりもする。

     

紅魔館の生活も慣れてきた。

昔の生活とは大違いだ。

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

レミリアは二階の窓から庭の手入れをしている新入りのメイドを見ていた。
 

「あら、珍しいわね」
 

振り返ると、そこには私の唯一の友人がいた。

よく見ると目に隈が出来ていた。・・・徹夜でもしたのだろうか。
 

「また徹夜?」

「いつものことよ」
 

と、愛想なくパチュリーは話す。

パチュリーが愛想無いというのはずっと前から変わらない。 多分これからも変わらないだろう。
 

「それより」
 

パチュリーも窓の外のメイドを見る


「あの新入りのメイド、人間なのに周りの妖怪や妖精達と同じ仕事の量こなして るわね、
 それに、彼女は大雑把な妖怪達には出来ない細かい所まで掃除をしている」

「ぁ、言われてみれば……」


と、窓の隅を指でなぞる

案の定、埃は指に付いていなかった。


「…………あの娘、これからどうするつもり?」

 

ふいに、魔女の顔が険しくなる。


「このままにしてても良い方向にはいかないわ」

「あぁ、分かってる」

「それに、名前もないんでしょ? あなた、名前は大切なんだとか言ってなかった?」
「名前は運命を左右する力を持つくらい重要なんだ

 ……私だって、このままにしてたら駄目だって分かってる」



二人は窓の外を覗く。


そこには新しく入ったメイドがテキパキと仕事をこなしていた。

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

「私の一存では決められないだろ?

 ・・・いくら私が運命を変える能力を持っていたって」

「そうね」
 

 

パチュリーは心配していた。

レミィはあの人間のメイドを気に入ってる とはいえ人間は人間だ、数十年しか生きられない。

……気に入れば気に入るほど失った時の悲しみは大きくなる

レミィを悲しませたく無いし、だからといってどうするわけにもいかない。

 

ああ、結局はレミィの好きな事をやればいいという結論になる訳だけど。

 

 


「そういや」

「何?」

「昼間から起きてるとは、あなた随分と早起きね」

「・・・暑苦しくて眠れないわ」

「そう?最近涼しいと思ってたけど」



そんな話が続く。他愛も無い話だが貴重な時間というのはレミリアも知っていた。

数分話したらパチェは図書室に帰っていった。なんでも、魔術書の本を書くそうだ。
 

 

 

ふいにあの言葉が再生される。

 


『彼女に名前が無い』

 

――名前……か

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

 


「ふぅ……やっと終わった」
 

今日の仕事が終わった。

汗もかいたしシャワーでも浴びようかしら。
そんな事を考えながら、私の部屋に向かって大きな廊下を歩く。


「あ、いた!」


お嬢様が私の部屋の前にいた。

……偶然を装ったように見えるけど、それにしては不自然。きっと、待ち伏せでもしてたのだろう。
 

「メイドの仕事の方はどう?」

「はい、毎日楽しいです」

「そう、良かったわ」


そして言い忘れたかのように続ける。


「ねぇ、今度紅茶の葉がとれるのは何時かしら?」
 

 

それについてならさっき庭の手入れをしていたから分かる。

 


「そろそろですね、明後日頃でしょうか」

「あら、案外早いのね。  なら、三日後ぐらいにあなたがその紅茶の葉で私たちに紅茶を作ってくれないか しら?」
「私が……ですか?」

「そうよ」

「…味は保証しませんよ?」

「楽しみにしてるわ」


そういってお嬢様は私に微笑む。

それにつられて私も微笑む。


「ふふふ、何がおかしいのかしら?」

「いや、微笑み返しただけですよ」
 

笑顔で私は話す。

あれ、何時の間にか自然に笑えるようになってる……。

 

そのあとお嬢様は、言いたいこと言ったから帰るわね。と言って自分の部屋に帰っていった。
 

「紅茶かぁ……」

無意識に呟く。 正直、作り方も何もかも分からない。


仕方ない。誰かに聞くしかない……。

 

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

「どうしよ……」

私はさっきから小一時間悩んでいた。突然お嬢様に言われた紅茶。

紅茶は飲んだことがあるがどう作るのかは知らない。

先輩メイドに聞こうか迷ったが、なんか負けた気がするからやめた。

そんなことを考えながら懐中時計を眺める。
 

「……ぁ、図書館で調べればいいんだわ」

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

扉をコン、コンと二回叩く。
 

「失礼します……」


なるべく音を立てずに入る。

見渡してもパチュリー様はいない。……奥で研究でもしてるのだろうか?
 

「〜♪〜〜〜♪」
 

鼻歌が聞こえる。

ふと音のする天井の方を見る。

そこには赤い髪と黒い羽と耳が生えている小悪魔

――この大きな図書館の司書さんが空中に浮かびながら本を読んでいた。
 

「――――、ぁ」


どうやら私に気付いたらしく近づいてきた。


「どういったご用件で?」

「紅茶の作り方の本を探しに」

「えーっと……料理関係は…………」
 

司書が辺りを見回す。

司書でさえここの本は全部把握出来ていないのだろう。


「あちらの本棚を左に曲がったところに料理関係の本がありますよ」

そういってその方向に指を差す

「分かったわ、司書さんありがと」

「いえいえ」
 

そういって料理関係の本棚を探す。

左に曲がってもたくさんの本棚だった

その一つの本棚を見る

アップルパイの作り方……、トマトジュースの美味しい作り方……、料理の心得 ……。

他の本棚にも料理関係の本がある。
 

どうやら一部屋くらいの本棚全部に料理関係の本があるようだ


「……仕方ないか、一つ一つ見ていかないとね……」 

 

そういって私は本を手に取る。

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

レミィと話した後、直ぐには図書館には戻らなかった。

何故か戻る気がしなかったのだ、久々に紅魔館を歩いて回った。

なまった体には良い刺激だった。
その後、例のメイドの部屋に来てみた 。

特別、目的は何もなかったが来てしまった。
 

トントン ……反応無し。
試しにドアノブに手を掛ける

 


・・・ガチャ

 


(あれ……開いてる…)
 

恐る恐る入ってみる。

キレイに整理整頓された部屋だった。 

散らかったモノは無いし、ベッドのシーツも畳んである。


ふと、机の上に置いてある”あるモノ”に気付く。

(あれは何かしら?)

パチュリーが見つけたもの。
 

―― それは無造作に置かれた銀の懐中時計。
 

(これは・・・普通の懐中時計ね・・・。)

パチュリーが懐中時計に触れようとした時だった。
 

 

 

「痛……」


思わず手を引っ込める。

今、目に見えない何らかの力が働いた。

なんだ今のは、結界だろうか?

いや、懐中時計にそんな力がある訳が無い

 

これは・・・何かしらの強い想いが具現化したもの・・・かしら。

 

 

その時、唐突に分かった。

この懐中時計が彼女の唯一の繋がりなのかもしれない。

もしかしたら彼女は──

 

(……出よう)

 

そう思い、パチュリーは音もなく彼女の部屋から出た。
色々な疑問があるが、彼女に聞くまで分からないだろう。


 

いや、何れ時が来る。


それまでの辛抱かしら。

 

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

--------------------------------------------------------------------------------


走る

走る

走る

 

物を投げ付けられようが、先生に怒られようが


逃げる

逃げる

逃げる
 

ふと空を見ると血のような赤い空

よく見ると雨も赤い


前方に私がいる

後ろにナイフを持った私がいる。

皆笑っている。

いつの間にか囲まれる。


 

グサッ……

鈍い音が私の頭に木霊する。

”私”の悪魔の笑みがあたりを黒で包む。

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

 

なんだこれは 気持ち悪い。

ああ・・・そうか、また悪夢を見たのか。
 

「それにしても……統一性が無いな」


そんな皮肉もさっきの悪夢には効果が無かった。

レミリアは彼女がとても気になっていた。

どっかの閻魔では無いが白黒つけないと一生この悪夢を見続けるだろう

と、レミリアの直感は告げていた。


悪夢の所為で眠気が吹っ飛んだのでベッドから出る。

カーテンを開けると夕方だった 赤く染まった夕日が痛いくらい眩しかった。
 

「……早く起きちゃった」


シャッ、とカーテンを閉める。

 

 

……今日は何をしようかしら。


--------------------------------------------------------------------------------

 

図書館の扉が開く 。

 

「お帰りなさいませ、パチュリー様」

「ただいま、留守の間何かあった?」

「あの、その、人間のメイドさんがいらっしゃってます、  …何でも料理関係の本を探してるとか」
 

料理……?

そういえばレミィが紅茶を楽しみにしてたわね

彼女に作らせるのかしら?
 

「そう……他には?」

「何もありませんでした」
 

それを聞くと私は料理関係の本がある本棚に向かった。
何しろここの本の量は尋常ではない。 人間なら探すだけでも疲れてしまうだろう。

(……やっぱり)

 

案の定、探し疲れたのかメイドは壁にもたれ掛かって寝てしまっていた。

 

(仕方ないわね)

 

魔法で彼女の体を浮かす。

そして、私の書斎にあるベッドに移動させた。

 


--------------------------------------------------------------------------------

 

 

「……ん…」
 

目を開けると、そこにいたのはパチュリー様だった。

って事はここはパチュリー様の…?

こちらの様子に気付いたパチュリーが話し掛けてきた。
 

「あら、ようやく起きた」


記憶を辿る
 

「ぁ……私、寝てましたか……?」

「ぐっすりね、最近寝た?」


そういや、お嬢様の起きる時間帯と仕事の時間帯が全く逆だから……。


「寝てませんね…」

ふと気付く

「あ、あのパチュリー様、今何時でしょうか?」

「そうね……夕日が沈む頃合いだわ」

「ぇ、ぁ……」
 

と言う事はお嬢様が来た22時から……。


「そうね、ざっと十時間は寝てたかしら」

「とりあえず、さっきメイド長に休みにしてもらうように言っておいたわ」

「ぁ、ありがとうございます……」

「立てる?」


私の手を取る 長時間寝てたせいか、足がやつれてフラフラする


「ぁ、すいません……」

「そういや」
 

パチュリーの書斎から図書館の広間に向かって歩いている途中で話 し掛けてきた


「ねぇ、なんの本を探してたの?」

「その、紅茶の作り方の本を……」
 

それを聞くとパチュリーはクスッと笑った


「レミィ、楽しみにしてたわ」

「そうですか」

「えと……紅茶に関する本は……」


こっちね、と歩くパチュリー


「ここら辺に…………ぁ、あった」

はい、と本を渡す

「ありがとうございますっ」
 

そう言ってお辞儀する。


「いいのよ。それに」

「それに?」

「私も紅茶楽しみにしてるわ」


またクスッと笑うとパチュリーは自分の書斎に帰っていった

 

それを見届けた後、私は本の最初のページをめくり始めた。

 


--------------------------------------------------------------------------------


   

//  Next  // Novel


◆ブラウザの[戻る]でお戻りください。