不完全な満月 

 

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 第二幕 『紅魔館』

 

 



目を開けなくても分かる。 
そよ風が気持ちいい。


そう、私は草原で横たわってる。

 

だって私がそうだといいなって思ったから。
だから分かる。
そう…これは夢。  

 



だけどこれが現実だったらいいのに。

 

 

 

目を開けない。


だって夢から覚めたら嫌。

 

 

 

 

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・・・、・・・、・・・、

 

 

 

あれ?足音が聞こえてくる。

夢の中に誰かが来るなんて。

 

   

「あれ、こんなところに人間が落ちてる・・・」

 

幼い女の子の声だが、どこか威厳のあるそんな声。   

だけど目は開けない、夢から覚めたら嫌だから・・・。

 

そんな事を思ってたら、頬をつねられた。

 

痛い…………。

 

 

 

 

あれ?   

 

 

痛い?

 

 

 

 

「貴女は誰?」  

 

 

幼い女の子の声がまた聞こえた。

そう、耳で聞くようなリアルな音。

 

ふと希望が込み上げる。

 

 

 

これは……夢じゃない……!  

 

 

私はゆっくり目を開く…………。

 

 

 

 

 

 

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ゆっくりと目を開ける。

広大な湖の湖畔に私は寝ていた。

ふと気付くと私の隣に少女が立っていた、”黒い翼”を生やし薄紅色のドレスを着て、帽子を被った少女が。

 

「ぁ、起きた」
 

翼の生えた少女が反応する。


「ここは・・・? あなたは・・・誰?」


突然の問いかけにも少女は丁寧に話してくれた。
 


「ここは幻想郷。私は紅魔館の主、レミリアよ。レミリア・スカーレット」
 


そういってレミリアは後ろにある大きな館を指差す。
 


「あなたは? ここに人間がくるなんてね……。どういったご心境で?」


 

レミリアは薄笑いで話し掛ける。手で下唇を触り、いかにも興味がありそうに。

 


「・・・・・、分からない。 気付いたら此処にいて・・・・。」


しどろもどろに話す。本当に何も分からないから。 

気づいたら見知らぬ場所にいたのだ。

今、雨なんて降っていないし、男の死体なんて無い。
 

「へぇ、分からない・・・か」


そう言ってレミリアは私の手を取る。
一瞬、顔を歪ませた。・・・・・気がする。
 

 

「……大変だったわね」

「ぇ?」

「それより、悪魔を恐れない人間がいたとはね」
「あなた……悪魔?」

 

悪魔・・・、というのは本でしか見たことが無い。
本で見た悪魔は醜かった気がする。ましてやこんな──


「そうよ、紅き悪魔、スカーレットデビル」

「悪魔がこんな可愛い少女なんて知らなかったわ」



そう言うとクスッとレミリア笑った。
本当に悪魔と思えないな、と思う。 


「フフ…面白いわね。なんなら私の屋敷に泊まらない?」

「ぇ……?」
 

拍子抜けだった。 


「だってあなた、夜になったら妖怪に食べられるわよ?」
「よ、妖怪?! ……いいの、本当に?」 

「ぇぇ、いらっしゃい紅魔館へ」
 

そういってレミリアは私の手を取り、立たせる。

あら意外と大きいのねと少女は感心したように言った。


「紅魔館はこっちよ」
「はいっ」 
 

私の手を取ってるのにも関わらずレミリアは走る。
 


こんなの、別世界だ。

私は走っていくうちに笑っていた。

 

 

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──紅魔館の門

 

「お帰りなさいませお嬢様!」
 

長い赤髪の少女がレミリアの姿を見ると元気よく挨拶をしてきた。


「あれ、そちらの方は?」

「客人よ」
「こ、こんばんは・・・」


私は赤い髪の少女に頭を下げた。
 

「ようこそ紅魔館へ! 私は紅 美……」

「さぁいきましょうか」


そういって館の扉を開ける。
 

後ろを振り替えると彼女が手を振ってくれた。

夜なのにあの人は何をしてるのだろうか?


 

そんな事を思っているうちに、ギィィィ……と扉が開く。

後で分かった事だが、どうやらメイドが内側から開いたようだ。


「うわぁ……凄い……」
 

赤を色調とした壁。

とても大きいシャンデリア。

何よりも私を驚かせたのは、


「お帰りなさいませお嬢様」


そう・・・、メイドの数。
 

「あぁ、彼女達は妖精メイドで家事とか掃除をしてくれるの」
 

なかにはサボってる妖精もいるけどね、とレミリアは私に説明してくれた。


「さ、あなたの部屋はこっちよ」
 

案内されたのは大きい寝室。


「今日は夜だけど寝なさい、疲れてないように装ってるみたいだけど体に悪いわ 」

「ぇ、ぁ、……はい」


図星だった 、装ってるつもりは無いのだけど。
 

「あと、その服着替えたほうがいいわ」
 

改めて私の服を見る。
・・・返り血を浴びた赤い服。
気付かなかった。


「でも……服なんてこれしか……」

「ぁ、待ってて」
 

そういうとレミリアは指をパチンと鳴らして妖精メイドを呼ぶ。

 

数十秒後、妖精メイドは一着のパジャマ服を持ってきた。


「今日はこれしか無かったけど我慢してくれる?」

「ぇ、いいんですか……?」

「当たり前じゃない」
 

レミリアが言った後、妖精メイドが服を着替えさせてくれた。

着替えさせてもらうのは・・・、慣れてない。


「あら、似合ってるわよ」

「そ、そうですかね?」
 

正直薄くてスースーする。

寝巻ってこういうものなのかな?


「んじゃ寝なさい。今日は夜遅いし、明日起きたらあなたと色々と話したいわ

 それじゃ、おやすみなさい」
「お、おやすみなさい」
 

そういってレミリアは部屋を出ていった。

 


ふと、過去を振り返る。

今までつらい人生を送ってきたんだ。

何時の間にかここに来ちゃったけど……
 


──今のこの状 況が幸せなのかもしれない。

 

ベッドに横になる ふかふかで気持ちがいい。

ふと懐中時計を取り出す 短針はもう犬魏瓩た。

 

 

レミリアは夜遅いと言ったがもう朝ではないか。
 

「まぁ……、いいや」
 

懐中時計を枕元に置く。



悪魔、紅魔館、妖精、メイド



「やっぱり、別世界だわ……」

 

 

 

……、ふかふかのベッドのせいか眠くなってきた。

 

寝てもばちは当たらない筈……。

 

 

 

──おやすみ

 

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 「ふぁぁ……」
 

目を覚ました。

カーテンの隙間から差す光が眩しい。

 

「わっ!起きた!」

「あれ、あなたは……」


──そこには昨日紅魔館の門にいた赤い髪をした少女

そういえば、愛想よく手を振ってくれてた・・・。


「ぁ、私の名前は紅美鈴です!美鈴って呼んでください」

「よろしくお願いしますね、美鈴さん」


美鈴に向かって一礼する。



「そんなっ、さん付けしなくていいですよ、呼び捨てでかまいませんよ」

「分かりました、そういえば何故ここに?」 
「お昼はお嬢様が寝ていらっしゃるので、代わりに私が紅魔館を案内することにな りました」
 

門番の仕事が休みになって嬉しい限りです!と本音を言う美鈴。というか案内係は休暇なのか。


「んじゃ、昨日夜遅くにあそこにいたのは門番をやっていたから?」

「そうです、お嬢様は人使い荒いんですよ!もう少し妖精も門番に駆り立てれば ……」
 

と愚痴をこぼす美鈴。

そういえば、何時の間にか対等に話せてることに気付く。

これも美鈴の力なのかもしれない。いや、力というよりも魅力?

適当な言葉が見つからない。


「そういや……あの、服はどうすれば……」

「ああっ!すいません……その」


慌てる美鈴。どうしたのだろうか。
 

「その…メイド服しか……無いです……」
 

申し訳なさそうに頭を何回も下げる。

……まぁいいか、着るものがあるだけ幸せだ。
 

「大丈夫、着てみる」

「すいません、今持ってきますね」
 

そう言って美鈴が慌てて服を取りに部屋を出る

一方私はベッドから出る 背伸びをする。
 

こんなに気持ちいい朝を迎えたのは初めてかもしれない。
 

「ぁ……」

「あの人におはようって挨拶するの忘れてた……」

 

……ま、いっか

 

 

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「ぉ、似合ってますよ!」
 

メイド服といってもメイドの仕事をするわけでも無いのでヘッドドレスやエプロ ンを付けない。

黒一色の服。まあこれもアリかもしれない。
 

「まぁ、大丈夫・・・かな」

「んじゃ案内しますね!」
 

私が寝ていた部屋を出る。

やけに美鈴は笑顔だ、門番が休みだからだろうか。

廊下に出た。赤い絨毯が敷いてあり、シャンデリアが至る所にある。

正直、一人では迷いそうだ。 



「こちらですー」

しばらく歩いてると、ある部屋の前で止まった。
 

「えと、ここが紅魔館の図書館ですー。とても広くてたくさんの魔術書や図鑑がありますー」


そういって扉を開く。


「凄い……」
 

そこにはおびただしい数の本。

本、本、本。

どこを見ても本。
 

「パチュリー様、客人の方を案内していて…」

「……何でもいいから静かにしてなさい」
 

向こうには美鈴と“パチュリー様”と呼ばれた人がいる。


様付けしてるからおそらくここの偉い人なのだろうか、

そう思いながら美鈴とパチュリーの所まで歩いていた。
 

するとパチュリーも本を読みながらもこちらに向かってくる



「貴女が例の客人?」


小さいがはっきりしている声。 

 

「は、はい…」

「貴女は……いつまでここにいるつもり?」

いきなりの問いに戸惑う私。
 

「ぇ……」

パチュリーの目が私に向く。
なんて凄みのある・・・。
 

「まぁいいわ、好きにしなさい」

 

「はい……」

「それにしても貴女……特別な能力を持ってるみたいね」
 

えっ、と驚く美鈴。
 

「時間を操る能力と・・・、まあ少しナイフの技術」


「そうです……が、何で知って」

「時間を止めて銀のナイフでレミィを殺すことも出来る」

「殺すなんてそんなっ!」

「例え話よ、ただ聞いてみただけ」
 

微笑。 そう言ってパチュリーは元の場所へ戻った。


「ぁ……あの、次にいってもいいですか?」
 

美鈴が気まずそうに話し掛ける


「・・・はい」
 

まだ紅魔館に来て能力を使っていない。

なんで・・・?
 

「次は……って紅魔館の名所って図書館だけだったり……」

どうしましょ?と聞く美鈴。
 

「・・・じゃあ、ここにいる人達の事を教えて欲しいわ」

 

 

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・・・・ぐぅ


 

その時私のお腹が鳴った。
 

赤面。

 

 

「その前に少し遅い昼食ですね♪」

元気に話す美鈴。 
 

「そうですね……」
 

と頬を赤らませながら美鈴の後に付いていった。


廊下を何度か曲がり、大きな食堂に入った。

どうやら妖精メイド達が食事をする場所の様だ。 
美鈴が言うには、お皿の上に食べたいものを乗せてテーブルで食べるのだとか。
 

「好きなものをとっていいですからね」
 

そう言いパンをお盆の上に置く。

私は見たこと無い料理に圧倒されながらも、とりあえずパンを取る。

 

──数分後


美鈴と同じ物をとっていたら凄い量になってしまった。


「さぁ、座って食べましょうか」


食べるのが待ちきれないのだろうか、美鈴が急かす。
 

「いただきまーす」
 

美鈴が勢い良く食べる 門番だから食物もそんなに食えないのだろうか、

私もパンを食べる。 お腹が減ってるから何もかも美味しく感じる。いや実際に美味しいのだろう。

 

 


間もなくして美鈴が話し掛ける。


「それで何が知りたいんだっけ?」
「え?」 

 

食べるのに夢中で忘れてた、・・・なんて言えない。
 

「ぁ、……えと最初から話すと、私、実は気付いたらここにいたというか」

元いた世界と違うこの世界に来たみたいで、んでこの世界の事を知りたいんです・・・。と分かるか分からないかギリギリの説明をする

 

いきなりスケールの大きい質問に美鈴も説明の内容がまとまらないようだ。 

紅魔館の方々の事を聞くと言っておきながら、この世界について聞いちゃったけど大丈夫かな・・・?

そんな罪悪感を抱く。 

そんなこんなで、しばらく経つと説明がまとまったらしく美鈴が口を開いた。

 


「えと、まずここの世界は幻想郷といって……」

 

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「…………またか」


また悪夢。現実にフラッシュバックされる。
紅魔館の主、レミリアは昨日から続く悪夢にうなされていた。
 

──二度寝して二回とも悪夢なんて今日は厄日かしら。


そんなことを考えながら服を着替える。

そういえば湖の畔で見つけた銀髪の彼女はどうなったのかしら。
 

 

──暇だった生活も楽しくなるかもしれない、そう思って彼女を紅魔館に招いた。


 

いや、違う 彼女の手に触れた瞬間、ほんの少しだが私は彼女の記憶を垣間見た。

・・・私の運命を変える能力が彼女をここに引き付けたのかもしれない。

もしかしたら───。いやなんでもない。



ま、考えたって憶測でしかないけど 、

それにしても彼女の事が気になる。



「昨日招いた客人は何処にいるの?」


早速妖精メイドに彼女の場所を探してもらった。 

ふと時計を見ると短針が擦鮗┐靴討い拭

ちょうど夜になって良かった。 日差しを浴びるのは嫌だから。

 

 

“そんな事”を考えてるうちにメイド長がやってきて私の服を着替えさせる。

「たまには一人で着るわ」

そう言って、自分一人で着る。

 

何故か、心が躍った。

 

 

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「じゃあ、そこには博麗神社があって……」

 

いつしか会話に夢中になっていて日が暮れていた。
 


「私も行ったこと無いんですけど、人間や妖怪が集まって宴会とかしてるみたいですよ」

「へぇ・・・、楽しそうね」

「……あら、ここにいたのね」
 

聞き覚えのある声。

そこには紅魔館の主レミリア・スカーレットがいた。

妖精達の食堂に来るのは珍しいのか妖精達はそわそわしている。

そんな事はおかまいなしにレミリアは続ける。
 

「食事は終わったかしら?」

「は、はい」

「ちょっと外に出てみない?」
 

そういってレミリアは微笑むと私の手を取った


「はい」


ぎこちない私に美鈴が手を振る

愛想がいいんだか……良くないんだか・・・。


 

 

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外はちょうど月と星が出ていてとても綺麗だった。

湖面にも月が反射して見えた。
 

「綺麗ですね……」

「そうね」
 

二人は紅魔館から少し離れた草原に横になる。

昨日と同じ風が吹いている。


「そういや貴女、他に行く宛はあるの?」

「それが無くて……」

「だったら私の処に住んだら?」

「え?」
 

思っても見ない言葉。

だが正直、紅魔館にいたいと思ってたのも事実だった。
 

「私なんかが……いいんですか?」

「もちろん」

「その代わり、紅魔館のメイドをやってもらおうかしら」
 

レミリアと私の目が合う。

嬉しそうに私が答えるのを待っている。

 

──私の答えは只一つ

     

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