"私"の幻想郷

 

 

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 "私"の幻想郷 --


 

 

 

此処は私たち天狗や河童が棲む妖怪の山。
河童や天狗、神々が住み、この山の内部では天狗や河童の社会が出来ている。

そんな中、私は今昼寝中。

……記事のネタが無くなって自暴自棄になってるのは内緒。

 

「どこかにネタが転がってませんかねぇ……」

 

よほど欲していたのだろう、そんな思いが口から溢れた。
仰向けになって天を仰ぎ、秋の澄み切った青空を眺めようとした。
そして、太陽の光で眩しく、目を細めた先に、白狼天狗の影が見えた。
彼女達は今日も山の警備だろう、ふむ、私も動かないより動いたほうがいいのかもしれない。
 

「さて、とりあえず色んな所に出向いてみますか」
 

私は、私なりにやらなくちゃいけないのだ。
そんな変な使命感を持ちながら私は地を蹴り、空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

……と意気込んでみたものの行くあても無く。

「だからって何で私の所に来るのよ」

「ぁ、煎餅お一ついいですか?」

「話を聞きなさいよっ」

「そうだ霊夢さん」

「ん、何よ」
 

私は万年筆と文花帖を胸ポケットから取り出す。
ネタがあったら文花帖に素早く書き留める、これが私のいつものスタイル。
というか鴉天狗は皆このスタイルだろう。……中には河童が発明した録音機なるもので音声を保存してやってるとかも聞くが。


「単刀直入に、何かネタありますかね?」

「無い」
 

そもそもネタって言われてもね、と霊夢が続ける。


「じゃあ何か変わった事とかはありますかね?」

「強いていえばお賽銭が減ったことかな」

 

茶を飲みながら話す霊夢。
……山の神社の巫女に信仰を吸収されたり?
嗚呼、そうだった博麗神社には元から賽銭が少ないのだった。それなら別段変わったことはない。

ネタにはなりませんね。
 

「なんか失礼な事を考えられた気がする」

「か、考えてませんよっ」


……これが勘ってやつですか、鋭い目で霊夢に睨まれしどろもどろし、どうにか誤解(実際は誤解ではないが)を解く。




「ふ〜ん、まあいいわ」



 

なんとか誤解を解き、はぁ、とため息をして万年筆と文花帖を仕舞う。

 







 

「いつまでいるの?」

「煎餅もう一枚頂いたら、おいとましますね」

「煎餅ねぇ、そんなに人気かしら……」

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最近異変が起こらない。
妖怪の山の騒動も目立たなかったし、ボヤ騒ぎ程度だったようだ。私が出向かなくても良かったじゃないかとか思う。
全く、平和過ぎて……。

上手く天変地異とか起こしてくれればすぐ記事に出来るのに
 

「平和を嫌う天狗、ですか、……何かこの二つ名は嫌ですねぇ」




 

 

「ぁ、文じゃないか」
 

飛んでいると後ろから箒に跨がった魔理沙が声を掛けてきた。
魔理沙は空の大きな布状の袋を持っていた。……何をする気だ。

 

「魔理沙さんですか、これからどちらへ?」

「紅魔館に行くところだ」

 

嗚呼、どうみても図書室の本を盗む気ですね……。

 

「そうですか、頑張って下さいね」

「……? まぁ頑張るぜ」

 

そう言うや否や魔理沙は紅魔館の方角に消えていった。
幻想郷でも最速ベスト3に入る彼女はまだ天狗のスピードについていけないだろう。
あ、幻想郷一足が速い決定戦とかいいですね。私と椛で首位を独占しそうな気がしますが。


「ご健闘を祈ります、そしてご愁傷様です」


魔理沙が向かった方角に向いて言って、クスッと笑った。


「さて、今日は色んな所に出向いてみますか」

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「いらっしゃい、文じゃないか」
 

香霖堂の店主、森近霖之助が愛想よく挨拶する。


「こんにちは、霖之助さん」

 

挨拶するや否や、店内を見渡す。
相変わらず用途の分からないものや外の世界のモノがいっぱいだ。
発明好きな河童に今度教えればきっと歓喜するだろう。


「そうだ霖之助さん、何か珍しいモノでも手に入りましたかね?」

「最近は特に無いなぁ」

「そうですか、ありがとうございます」

 

何故だろう、今日はこれといって何もない。
誰かの陰謀かしら? まあこんなくだらない陰謀するやつなんていないでしょうけど。
まあでも、たまにはこんな日があるのかな。
 

「ぁ、そうだ。私の知り合いに発明好きな河童がいるんですが紹介してよろしいでしょうか?」

「ほう、発明好きな河童か。……会ってみたいな」

 

予想した答えを45度違った返事をされた。
まぁいい、今度河童に紹介してみよう。彼女も喜ぶことだろう。

 

「じゃあ失礼しますね」

「なんだ、もう行っちゃうのか。今度、茶菓子でも用意するよ」

「楽しみにしてますね」

 

二人は愛想笑いをして私は香霖堂を出た。

 

「……次は何処に行きますかね」

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なんだか記事のネタよりも色んな人に会うのが楽しみになってる私がいた。
ま、そんな日もあってもいい筈だ。

……ということで人里に来てみた訳ですが

 

「すまないな、水汲みを手伝ってもらって」

「いえいえ」

何故私は慧音さんと水汲みをしてるのでしょうか。

「はい、これ」

慧音さんから茶色い水が入った飲み物を手渡される。

「これは…?」

「麦茶だ、美味しいぞ。夏バテにも効果があるらしい」

「へぇ、そうなんですか」
 

もう秋だから夏バテは関係ないですよ、とは言わなかった。
とりあえず、試しに手渡された麦茶を一口飲んでみる。


「……あ、美味しい」

「また飲みたくなったら来なよ、まだ一杯あるし」

「ではお言葉に甘えて」


残りも飲み干し、飲み干したときの余韻を味わいながら、私は慧音に尋ねた。
 

「そういえば何か変わったことでもありますかね?」


慧音が顎に手を当て、考えるポーズをする。
 

「うーん、無いなぁ。……記事のネタにするなら紅魔館にいったらどうだ?」

「なるほど紅魔館ですか。確かにそうですね。ありがとうございます」

 

慧音に軽く会釈をして私は人里から飛び去った。

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紅魔館に行く途中、チルノや大妖精がいたが素通りした。
彼女達に絡まれたら面倒だ。

 

「文さん、ですよね?」

紅魔館の門番、紅美鈴が会釈した。

「はい、お久しぶりですね」
「紅魔館にはどのようなご用件で?」

「何か変わったことでも無いかなぁと思いまして」

「はぁ……」

「簡単に言えば突撃取材ですね」

「とりあえずは知人さんということで入れますが、お嬢様に迷惑が掛からないようにお願いしますね」

「はい」

 

美鈴が門を開く。
そういえば魔理沙は無事に本を"借りる"事が出来たのだろうか。
……後で図書館に行ってみよう。

 

 

───久しぶりの紅魔館、周りを見渡すと妖精メイドたちがいそいそと掃除をしていた。
私の家にも掃除のメイドさんが欲しいものですね。

 

 

 

 

 

 

 

……その時だった。
後ろから気配を感じたのは。

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「ぎゃおー!」

「……」

「……ぎゃおー」

「こ、これは伝説の怪物モケーレムベンベ! なんとこの射命丸文、伝説の怪物に遭遇しました!
 果たしてモケーレムベンベの生態はいかに!」

「モ、モケー……。 ごめん、分からないわ」

「……」

「……」

「……」

「なんとかいいなさいよっ、恥ずかしいでしょ!」

「これは……趣味ですか?」

「趣味でもなんでもないわ、ただの暇潰しよ!」

「……そうですか」

 

 

周りをチラッと見るとハンカチで鼻血を拭うメイドが数多。
この異様な雰囲気、私は一体どうすればいいのでしょうか

 

「と、とりあえず今のは記事にしないでよね!」

「はい、……多分」

 

────スッ

 

あれ、後ろにナイフの気配がするのは気のせいでしょうか。
冷たい銀の感覚が首に当たっているのですが。

 

 

「はい、絶対しません」

 

 

 

ああ、新聞記者も大変だ。

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レミリアは私を殺そうとした咲夜と一緒にどっか行ってしまった。
……とりあえず、私はさきほどのゾッとする話を私なりに肥大化させて文化帖に書き込んだ。
 

「折角、紅魔館に来たものの取材する場所が無いし、図書館に行ってみますか」


慧音の言う通り紅魔館に来て正解でした。
新聞の記事にしたらメイド長に半殺しにされそうですが……。

廊下を歩き、幻想郷一を誇る蔵書量の図書館の前に辿り着く。
そこにある意味住んでいる魔女、パチュリー・ノーレッジは凄い知識人なのだと私は思う。
そう思いながら図書館の扉をノックする。
そういえば魔理沙はどうなんたんでしょうか、無事、盗みは成功したのでしょうか。


「失礼しまーす」

「あら、珍しいわね」

 

そこにはパチュリーと司書、……そして魔理沙がいた。
あの、なんかクリスタルみたいなモノに魔理沙が閉じ込まれてる気がするのですが。これは?

 

「パチュリーさん、これは一体?」

「新しいマジックアイテムを使ってみたの。お陰で魔理沙から本を守る事が出来たわ」

 

得意気に話すパチュリー。その傍ら、おどおどしている司書さん
ともあれ、珍しい光景なのでクリスタルに閉じ込まれている魔理沙の写真を撮る。撮った刹那、ドンドンとクリスタルを叩き必死の抗議。
お陰で二枚程、カメラに収めさせていただきました。

助けてくれー。と言ってる様ですが、このクリスタルは音すら通さないようで。

 

「そうだ、何か変わったことでもありますかね?」

「魔理沙が捕まった事かしら」

「ぁ、いえ、他にもありますかね?」

「強いて言えばレミィのカリスマが著しく下がった事かしら?」

「ああ、モケ……いえ、何でもないです。 ありがとうございました」

「どういたしまして」

 

くるりと向きを変え、

 

「司書さん、これはいつまで続くんですかね……?」

「パチュリー様の実験台にされるかと……」

 

さらりと斜め上の答えをした司書

 

「お仕事、頑張ってくださいね」

「は、はいっ!」

 

 

あ、そうだ、良い事思い付いた。

 

 

 

 

「あーっ、あれは!!」

 

図書館の扉の前で私は大声で叫ぶ。
距離は……大丈夫、この距離なら全員”写る”だろう。

 

「「何!?」」

 

二人、いやもとい三人がこっちに向いた瞬間、私はカメラのシャッターを押した。

 

小さなフラッシュに驚く司書

 

間をおいて数秒後に聞こえる「あーっ!」という声

 






 

「よく撮れてるといいですねぇ」

 

 

そう言って足早に図書館を後にした。

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「ぎゃおー」

「……」

「ぁ、なんだ文か」

「……」

「ちょっと、何か話しなさいよ!」

「飽きないですねぇ」

「……ッ」

 

そうか、レミリアは通行人に"暇潰し"をしてるのか
なんだか可笑しくて笑いを堪えるのが大変だった。

 

「そうだ咲夜さん」

「……?記事にしたら殺すわよ」

「あ、いえ、しませんて。──そのレミリアさんの隣に寄って貰っていいですか?」

「……え、あ、いいわ」

「ちょっと、文、どうするつもりかしら?」

 

 

 

「ちょっとした、記念撮影です」

 

 

 

───パシャ

 

 

 

「ちょっと、ぁ、逃げた!」

「待ちなさーい!」

 

 

 

そして私は紅魔館から(逃げ)去っていった。
きっと微笑む二人の写真がフィルムに収まっただろう。

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「ふふ……二人とも良い顔でしたよ。 上手く撮れてればいいのですが」

 

 

誇らしげな笑みを浮かべ次の目的地に向かう。

図書館で思い付いた"良い事"をしようと、本来のネタ探しを後にする

何でだろうか、皆の元気な顔が見たくなったから?

さぁ、私にも分からない。

 

 

「楽しければいいんですよ」

 

そんなアウトロー精神を自分に言い聞かせる。

 

目の前に見えるのは麓の神社。
そこには二人の神と一人の巫女が住んでいる。
空は朱色に染まり、妖怪の山は木々の紅葉で綺麗だった。

 

私は神社の境内に降り、紅葉を箒で集めてる早苗に会釈した。

 

 

「あら、天狗さん」
「鴉天狗の射命丸文です。以後お見知りおきを」

「よろしくお願いします。 私は東風谷早苗と申します」

 

ペコリと頭を下げる早苗。
どこぞの巫女とは違うオーラが漂っていた。なんというか本来の巫女って感じがします。
 

早苗の事は知っていたが話したりはしなかった。いや、話をする機会が無かった。
これを機に、親交を深めようか。うん、そうしよう。

「生活は慣れましたか?」

「は、はい。幻想郷の人達は親切ですね。色々と生活の豆知識を教えてくださりました」


微笑む早苗、なんだか幸せそうに見えた。
 

「そうだ、お二方は?」

「神奈子様と諏訪子様は中で寝転がっています」

「そうですか」

「そういえば、どうして此処に?」

「三人の写真を撮りたいなぁ、と」

「そうでしたか、記念写真いいですね。……少しお待ちくださいね」

 

なんだか楽しげな早苗。
此処に来たのもある意味奇跡なのかもしれない。

いや、奇跡なんて後から気づくものだ。

少しすると神奈子と諏訪子が早苗に急かされながらも来た。

 

「早苗ー、何するのさ?」

「早苗ー、ご飯まだぁ?」

 

 

(ヘタレてますねぇ……)

心底、思った。なにやってんだ神様。
 

「写真撮りますよー」

「さ、さ、神奈子様、諏訪子様、ピースピース!」

「しゃ、写真!?魂吸われるわよ!」

「神奈子、それは迷信だと思うよ?」

「……ぇ、そ、そうよね。でも、だ、だ、大丈夫かしら」

 

(何なんですかねこの神様……)

 

「はい、チーズ!」

 

カメラのシャッターを押す。
なんだか奇跡的に二人の神様がこっちを向いていて良かった。
多分良く撮れてる筈だ。

 

……多分。

 

 

 

しっかし彼女達は本当に楽しそうだ。
奇跡はある意味必然なのでしょうか。それとも奇跡は運命すら操れるのではないのか。
微笑ましい三人がなんだか羨ましくて仕方なかった。

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太陽は山に隠れるちょっと前。

私は最後に博霊神社に寄った。

 

「あら、また来たの?」

 

どこかの魔女のような話し方をした霊夢が言った。

 

「文ー、さっきは助けてくれよー。酷いぜ全くー」

 

魔理沙も一緒にいた。
恐らく夕食を御馳走になるつもりだろうか。

軽く会釈して神社の中に入る、魔理沙の話に関わるとなんか問われそうな気がしたので半ば相槌と愛想笑いで軽くスルー。

魔理沙は話すネタも無くなったのか、くつろぎながら煎餅を頬張っていた。

 

煎餅、人気なんでしょうか?
いや寧ろ煎餅しか無いから、ですかね。

 

 

一人、自己解決し私も煎餅に手を付ける。

 

 

「そういや文は何しに来たの?  はい、お茶」

 

「記念写真のサービスに。 ……あ、これは麦茶ですね!」

「記念事なんてあったかしら……、 その麦茶、慧音から貰ったのよ。美味しいって評判みたい」

 

よし、明日また慧音の元にいって麦茶を分けてもらいますか。

最近疲れ気味の椛にも飲ませてあげよう。

 

 

「で、写真撮れば帰ってくれるのかしら?」

「まぁ……はい、そうですね」

 

 

どうやら夕食に私の分は無いようだ。

 

 

「ぁ、んじゃ霊夢さんと魔理沙さん並んでくださいな」

「私もか?」

「はい」

 

気恥ずかしそうに二人は並ぶ。

 

「んじゃいきますよー」

 

 

シャッターを押す。

 

 

パシャというシャッター音

 

 

「良く撮れてるといいですね」

 

 

そんないつもの台詞を言った。だけどそんな台詞がいいのだ。

ふと外を眺めると夜が始まっていた。

 

 

 

全く、私も平和ぼけしましたねぇ……。

薄っすらと笑みを浮かべ、漆黒の大空へと羽根を広げた。

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"私"の幻想郷 -after-

 

 

 

 

今日も今日とて、変わらない平和な幻想郷。

 

 

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「お嬢様、文さんからこれを……」

「あら、これは……」

 

 

 

其れは私と咲夜が笑いながら写っている一枚の"写真"だった。

全く、粋なことしてくれるじゃない。

 

「良く撮れてますね」

 

写真と同じ笑顔の咲夜

 

「ぁ、もう一枚あるわね」

「これは……」

 

パチュリーと司書と。

……水晶のようなものに囚われている魔理沙。

 

 

 

「なんでこの二人だけ笑顔なのかしら」

「不気味ですね……」

 

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「神奈子様ー諏訪子様ー、文さんからこれ!」

「お、この前撮ったやつだよね? よく撮れてるじゃない」

「……これ何時撮ったの……?」

「あー、神奈子はあの後お酒飲みまくってたからねぇ」

「そうだったそうだった。 って、私だけ目が閉じてる!」

 

一人落胆する神奈子。早苗がそれを宥める。

 

「今度は幻想郷の皆と写ってみたいねぇ」

 

諏訪子が写真を見ながら呟く。

 

「私達、幻想郷に来て間もないですしね」

「なら今度、ここで宴を開けばいいじゃない!」
 

テンションの起伏が激しい神奈子が提案する

 

「ぉ、いいね」

「それ、いいですね」

 

 

 

 

 

麓の神社は普段より活気に満ちていた 。

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「霊夢ー!」

「なによ、騒がしいわね」

「これ、文からだってさ」

「あらこれは……」

「早く開けてみようぜ」

「分かった分かった急かさないの、今開けるわよ」

 

 

魔理沙から手渡された封筒。

それを開封すると一枚の写真が入っていた

 

 

「お、これってこの前の文が撮ったやつだよな?」

「ええ、よく撮れてるわねぇ」

「そうだな」

 

私はクスッと笑い、魔理沙はにぃっと笑う

 

 

 

「さて、夕飯にしようかしら」

「待ってたぜ」

「今日は私の分だけよ」

「なんだよ、霊夢のケチ」

「それ以上言ったら本当に魔理沙の分、用意しないわよ」

「ぁ、私の分用意してたのか、始めからそう言えばいいのに」

 

はぁ、と溜め息をつく。

ま、魔理沙らしいからいいんだけど。

 

「ねぇ魔理沙」

「なんだ?」

「この写真一枚しか無いし、あんたにあげるわ」

「いいのか?」

「いいわ」

「ありがとな、家に飾っておくよ」

 

 

ずっと平和だったら、ずっと時が止まっていれば、ずっとこのままだったら。

どんなに、良いことだろうか。

でも、そんな事は無理なのだ。

だからこそ私は過去を刻まない、刻みたくない。

だって、人間は儚いから。

情なんてあったら、ただ悲しいだけ────

 

 

「あ、霊夢。もう一枚入ってたぜ」

「……え」

 

全く、鴉天狗はお節介だ。本当にお節介。

捨てるわけにもいかないじゃない、魔理沙が私にそんな笑顔を渡したら──

 

 

「仕方無いわね、折角だし、部屋に飾っておくわ」

 

 

そう、仕方ないのだ。

まあ、でも、もしかしたらそんな事にあの天狗は気づいてたのかもしれない。

全く、この類は捨てられないし、たった一枚の写真を誰かにあげることなんて出来ない。

 


きっと、生涯大切にするだろう、いやすることになるだろう。

 

 

 

"今"を閉じ込めておく一枚の絵を―――
 

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「ふぅ、一仕事終えた麦茶も格別ですねぇ」
 

結局、新聞は休刊にして撮った写真を配達にしていた。


「ま、そんな日があってもいいですよね」


そう言って麦茶を一杯。

ふと、くつろいでいると玄関からノックの音が聞こえた。

 

「文さん、椛ですー」

「いらっしゃい、麦茶冷やしておきましたよ」

「わぁ、そうですか。……して、麦茶とは一体?」

「うーん、お茶を冷やした飲み物と言った方がいいですかねぇ」

 

そう言って手招きして椛を部屋に呼ぶ。

 

「はい、警備お疲れ様」

「これが麦茶ですか」

 

一口頂きますね、と言って麦茶を飲む

 

「どうかしら?」

「凄く、美味しいです……」

 

目を輝かせながら椛は答えた。ああ、私と同じ反応。

 

「人里から分けて貰った甲斐がありました」

ニコッと笑うと、それにつられて笑う椛。

「そうそう椛、お願いしたいことが」

「……? なんでしょうか」

「写真、私と一緒に写ってもらえますか?」

「私、と? いいですよ」

 

 

私の幻想郷はこのカメラに納める。

たとえ月日が過ぎようとも変わらない永遠の時を。

それが私の生き甲斐であり、楽しみなのかもしれない。

新聞を発行し、写真を撮り、微かな事象さえ残し、リアルタイムな歴史を紡いでいく。

私は、そんな平和な幻想郷に夢を見た一人なのかもしれない。

 

 

 

「文さん?早く撮りましょうよー!」

「あ、すみません考え事してました」

 

 

カメラのシャッターを押す。もちろん河童に改造してタイマー機能

 

 

そして素早く椛の隣に立つ

 

「あ、文さん近い……」

「椛、笑ってください!」

「ぇ、ええっ!?」

 

 

パシャ

 

 

 

シャッター音が鳴り響く。

ああ、出来上がった写真が楽しみで仕方無い。

そんな時、椛がボソッと私に言った。

 

 

「文さん、目つぶっちゃったんで、もう一枚いいですか……?」

「……え」

 

 

- fin -

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あとがき

 

これ実は2008年の6月頃に書いてたやつなんですよねw
いつもの路線ではなくて、少しほのぼのするようなそんな話が書きたかったもので。

まだまだ書いた小説のテキストはあるのですが、それをhtmlに反映するのが面倒で(´・ω・`)
不完全な満月を一つにまとめればよかったと後悔。うう。

とりあえず、なんか暖かい気持ちになって欲しいなあとかなんとか。

 

2008/11/22 記

 

        

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