
序
古代より、龍は神聖なものであった。神聖にして、恐ろしき悪の象徴でもあった。
龍の住まう天龍山に近づく者はおらず、たとえ近づくとしてもおびえながらであった。
ときに好奇の心を色濃く持つ者が天龍山へ行くことがあったが、帰る者はおらず、人々は更に龍を恐れた。
それでも人々は神聖なる龍を崇めていた。
朝起きれば天龍山の方角を拝み、昼食の前にも拝み、日暮れの時間にも拝み、夜寝る前にも拝んだ。
そして土地が枯れてしまえば龍に祈り、洪水が起きては祈り、戦いに出陣するときも祈った。
龍が何かをしてくれるわけではない、それでも人々は龍という存在を崇めていた。
しかしいつからか人々は龍を崇めなくなった。人々は発達して「文明」を手に入れ始めたが、代わりに「祈り」や「感謝」の心を忘れた。
人々の心は龍から離れていった。
次第に、人々は欲が芽生え始めた。”あらゆるものの頂点に立ちたい”という欲が。
人々は新たに開発した武器でたくさんの生物を従え始めた。龍をも従えようとした。そして龍は、彼らの古からの住処を追い出された。
しかし、龍は怒らなかった───落胆したのだ、太古の昔から距離はありながらも共に生きてきた人間に対して。
龍は人間に憐みを感じた。愚かな、人間に。
そして龍は姿を消し、今ではもう伝説上の生き物と呼ばれる───。
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