fantasia

アノンというORCA




泳ぎには自信があった。


幼少の頃から
海辺の街で育ちつねに海を、水を肌で感じ
その雄大な自然にゆったりとくつろぎ
全身を思うままにまかせていた。

俺の体をつかさどる上で欠かせない海。

体が潤い純化していくのは
…そんな海と戯れている瞬間だった。

高速道路で京都をすぎ北陸方面へとひたすら
走りつづけていた。

日本海をのぞむその真新しいリゾート地で
先に着いた友人達が待っている。

もともと自分の仕事を同僚にあずけることは出来なかった。
その仕事を抜ける訳にはいかなかった。

一日遅れで出発した事もあり軽い焦りと苛立ちが湧きあがる。

アクセルを強く踏み込む。

メルセデスG55 AMG longが荒く吠えた。
武骨な車体を左右に揺さぶるように急加速していく。
150km以上のスピードが出ていた。


何かが変わった。
流れる景色が静かに大きく変わった気がした。

モノクロ調に変化を遂げた景色と
その色彩の意味するものが何なのか。

掴めなかった。

大海が目の前にイメージされた。

その遥か遠くから微かにザトウクジラの
切ない声が届いた。
忍び泣くような声。

古事記にある「一浦に依れり」

多くの海の生物が海辺に乗り上げ末期を迎える。

そんな時
彼が深海のように洩らす不鮮明な溜息と
巨体に似合わぬわずかな悲鳴だった。

数年前ホエールウオッチングへ行った時の
シーンが甦る。

違う道を走っている。
その事を自分自身しっかりと判断できた。
でも…もうよかった。

もう一度小刻みに震わす巨体が目もあやに迫る。

瞬間、体に大きな違和感を感じた。
体内を、俺の体を深く静かに潜水する物体が見えた。

その物体は大きな水しぶきと音を発しながら
尾びれで水面を叩く。

今度はブリーチングだ。

水面から大きく浮かびあがった姿を見て驚いた。

ORCAだった。

架空の視野におさまる黒と白の物体。
残忍でどう猛な動物と言われながら時に神格化される
稀少な存在。

なぜ俺の体内に…。




心から愛する女性「アノン」


そのリゾート地で行方がわからなくなった。

海面に線を引いたかのように変化している場所。
いわゆる潮の目。

一瞬目を離した瞬間アノンの姿は
なかったと言う。
またたく間に空中に海鳥が群れ集まったと言う。

言葉はいらない。

それがアノンである自信も俺にはない。

俺の瞳は一滴の涙もでないほど枯れていた。


ORCAは海を愛する人間に近づいてくる。
ゆったりくつろいで泳げる人間に擦り寄ってくる。

泳ぎには自信があった。


ORCAが水面から姿をあらわした。
すこしくぐもったような甘い声を出してくる。

「Stay With Me」

そうなのか。
アノンとともに過ごした日々が鮮明に甦る。


瞳の奥に微かに柔らかい光が宿った。(sou)



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