fantasia

開いた扉の先に




心が躍るカフェだった。


いつもピアノの旋律を強く打ち出したJAZZが流れていた。


全面を深い色の木の壁に包まれた古い建物の中は
アンティークのインテリアにほんの少しのモダンデザインを
ミックスした気持ちいい空間が息づいていた。

カラッとした香りを含んだ透き通った風が
私のほおをなでていく。

そっと、やわらかく。

きれいに磨かれた窓からは真っ青な空を背景に
風景が絵のように連なっていく。

その先に、手の届きそうなほどの距離に見えるもの。
第3セクターが数億円を投資し開発した
巨大テーマパーク。


そしてその廃墟だった。

人が立ち入る事はできない。


コンクリートの床にゆっくり立ち上がった私は
彼女に向かって声をかける。

「出ようか」

「うん」

彼女の手を取ろうとする。

だが手を合わせようとはしなかった。

木の直線をふんだんに使った黒いテーブル。
真横から見ると楽譜のようにも見える。



彼女の事が最近まったくわからなかった。
一緒にいながら心はここにない。
その視線は私を通り抜け遥か彼方を見ているかのようだった。


店を出て振り返る。音が美しく響くカフェ。
木でおおわれた宝石箱のように見えた。

「ここが一番好き」
彼女が口を開いた。

「ああ」
私もこたえた。

固まった気持ちが少しだけ解きほぐされた気がした。



テーマパークが目の前に迫る。
朽ち落ちてなお勇壮な姿を強く表現しようとしていた。

告白するつもりだった。

彼女なしで生きていく事なんか考えられなかった。
ただ最近のよそよそしい態度に
決心する事を先のばしにしてきただけだ。

正門左の草むらから強い傾斜をあがった先に
パーク内へと通じる流れる空間があった。
まるでひとつの小宇宙へと続く扉のようにそこに存在した。



時が経つのを忘れて人っ子ひとりいない


パーク内を散策する。

建物の窓に反射した太陽が私の顔を照らした。

はっとする。

決意した瞬間だった。

前置きはなかった。




「結婚しよう」





彼女を見る事はできなかった。
背中を向けたまま戻る言葉を待つ。

とんでもない時間が過ぎ去ったような気がした。
息がとまりそうだった。



突然彼女が背中から抱きついてきた。
私の背中についた唇から言葉が漏れた。

「わからなかった…あなたの事が…」

激しく波打つ動悸を悟られたくなかった。



「Melodies Of Love」

あのカフェで何度も耳にした気持ちのいい曲が甦る。
見るものすべてがきらめきに満ち溢れてきた。



空を見上げる。
太陽が走るように動いていった。(sou)




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