fantasia

消えない記憶




海岸沿いに延々とつづく道をクルマで走っていた。


右手に広がる海面に太陽の輝きが強く反射している。
一瞬目を奪われそうになる。

ゆっくり前方へと視線を戻す。
前後、対向に一台のクルマも視界に入ってはこない。

3月といっても外はまだ引き締まる冷たさだ。
車内は25℃の快適な温度を維持している。

気持ち良く回るエンジン音が全身に伝わってくる。
そのクルマ、BMWミニクーパーSは
あくまで滑らかに、四輪を踏ん張り、道を這うかのごとく
時に緩やかに、時にタイトなカーブを普通の顔でパスしていく。

助手席には彼女が座っていた。

左側のウインドウに向けた顔をこちらに向ける事はなかった。

左手には海とは逆の崖が切り立った
険しい斜面がつづいている。

2人に会話はなかった。


やがて道は穏やかな平地へと繋がっていく。

左手にバロック調の家並みが見えてきた。

まるで海外の避暑地に迷い込んだかのような錯覚に陥る。
すべての建物に、あったかな家族の営みが感じられる。
繰り広げられる情景が目に見えるようだ。


「素敵な家ね」
彼女が口を開いた。


なぜそんな言葉がついて出たのか。
沈黙を破るように私も口を開く。

「買って一緒に住もうか」
つとめて明るく言ったつもりだが会話がつづく事はなかった。


偽りの言葉でしかなかった。

2人の愛は完璧に終わっていた。

いや私のほうが冷え切っていた。
もし歩み寄って、気持ちを封印し
何ヶ月、何年か仮に一緒に過ごせたとしても
その先、この海のように延々とつづく人生を
ともに過ごしていく事など出来はしない。

彼女が私の言葉をどう捉え、どう考えたかはわからない。
到底ありえない事も
実はすべて明察していたのかも知れない。


彼女のまったく表情のない顔。
深い海の色を湛えた目が
ぼんやりと浮かびあがってきた。


「After The Love Is Gone」

なぜ。
あの時の事がよみがえってきたのだろうか。

もう優しい言葉をかける事も
包んであげる事も出来はしないのに。(sou)



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