切口説 不意を討たれた〜割って見せたい

不意を討たれた千代松丸を 愛し愛しと生仏 

 吹けよ川風上がれや簾 中のお客の顔見たや 

 富士の山ほど登らせおいて 今は釣瓶の逆落とし 

  富士の雪かや私の思い 積もるばかりで消えやせぬ 

  豊前中津を素通りなさる 二度とこの地に来ぬ気やら 

   豊前山国その山奥で 一人米搗く水車 

   船の新造と女房の良いは 人が見たがる乗りたがる 

    船を出しゃらば夜深に出しゃれ 帆影見ゆれば懐かしや 

    舟は稲積北浦かけて 世帯まわれば南浜 

     船は出て行く帆かけて走る 島の娘は出て招く 

     豊後緒方は踊りの町よ 川の水さえ踊ります 

      豊後鉄輪蒸し湯の帰り 肌に石菖の香が残る 

      豊後富士から吹く春風よ 木の芽草の芽皆萌える 

       豊後別府は東洋のナポリ 今じゃ世界の湯の都 

       豊後名物その名も高い 踊る乙女のしなのよさ 

        豊後湯の岳豊前じゃ屋山 御国境の英彦の山 

別府名所の乙原地獄 登るケーブルカーも乙なもの 

 別府湯煙り入船出船 街は栄えて人の波 

 別府湯の町ゃまだ寝て起きぬ 招く高嶺は由布が峰 

  別府よいとこ湯の香に明けて 白いうなじに洗い髪 

坊主地獄を見たけりゃおいで それも因果な坊主さん 

 程のよいので油断がならぬ 添うた私が気がもめる 

 炎火売の社の松は 夫婦松ゆえ離りゃせぬ 

  惚れてつまらぬ他国の人に 末は烏の鳴き別れ 

  ほんに哀れよ血の池地獄 とてもこの世と思われぬ 

   盆の踊り子が塩浜を越えて 黒い帯ょして菅笠で 

   盆が来たなら踊ろや競ろや 品のよいのぬ嫁にとる 

    盆が来たらこそ麦に米混ぜて 中に小豆がちらほらと 

    盆の踊りが習いたきゃござれ 盆の十三日に見てござれ 

     盆の踊り子が塩浜越えて 黒い帯して菅笠で 

     盆の踊りと三日月様は 次第々々に丸くなる 

      盆の十六日おばんかて行たら 茄子の切りかけふろ煮しめ 

      盆の十六日めでたい月夜 子持ち姿も出て踊れ 

前に高崎後ろに鶴見 由布は見えぬか湯の煙 

 枕十六蒸し湯の中に 誰が寝るやら来るのやら 

 待つがよいかよ別れがよいか 嫌な別れよ待つがよい 

  待てど帰らぬお方と知れど 今日もくるくる糸車 

  招く灯台姫島泊まり 明けて潮風灘を来る 

   ままにならぬとお櫃を投げりゃ そこらあたりはままだらけ 

   ままよ菅の笠被り様がござる 後ろ下がりに前よ上げて 

    まめで逢いましょまた来る盆に 踊る輪の中月の夜に 

     丸い玉子も切りよで四角 物も言いよで角が立つ 

三重の内山紙漉き所 紙を漉く娘の器量よし 

 みかん売り子じゃわしゃないけれど 道が難所で灯を灯す 

 水の出端と二人が仲は 堰かれ逢われぬ身の因果 

  水は溢れて谷間を縫うて 里の娘の化粧水 

  道は難所じゃイヤなけれども 家が難渋で灯を灯す 

   見ても見事なお宇佐の榎木 榎の実並んで葉も繁る 

   身には衣着て名は帯しめて 心濁らぬ樽の酒 

    水沼お水は濁らず涸れず いざり大蔵の脚も立つ 

昔栄えた仏法の形見 国の宝の竜岩寺 

 昔ゃ肥後領百千の船が 上り下りに寄る港 

 娘可愛や白歯で身持ち 聞けば殿御は旅の人 

  娘島田に蝶々がとまる とまるはずだよ花じゃもの 

  昔なじみとつまずく石は 憎いながらも振り返る 

   娘招くなあの船待たぬ 思い切れとの風が吹く 

目出度目出度の若松様よ 枝も栄えて葉も茂る 

元湯汲むとて朝起きしたり 逢いに来るとて寝なんだり 

 もののあわれは石堂丸よ 父を尋ねて高山に 

 木綿引き引き眠りどまするな 眠りゃ名が立つ宿の名が 

  木綿引く引く居眠りなさる 糸の出るのを夢に見た 

  木綿引く引く眠りどまするな 眠りゃ伽衆がみな眠る 

   守江灯台霞がかかる わたしゃあなたに気がかかる 

八重の山吹派手には咲けど 末は実のない事ばかり 

 八百屋お七と国分の煙草 色で我が身を焼き捨てる 

 薬師囃子に名残を見せて 月も入江の湯治舟 

  痩せるはずだよ今日この頃は 茶断ち塩断ち主のため 

  屋根の簾を下ろして急ぐ 粋な爪弾き水調子 

   耶馬の谷間に朝立つ霧は 雨とならずに雲となる 

   耶馬の洞門通れば響く 今も禅海つちの音 

    野暮な屋敷の大小捨てて 腰も身軽な町住い 

    山で怖いのはイゲばら木ばら 里で怖いのは人の口 

     山に登ろよ鶴見の山に 裾野十里に名が響く 

     山の中でも七万石の 豊後竹田は城下町 

      山は晴れても麓は時雨 里の籾摺りゃまだ済まぬ 

      山は焼けても山鳥ゃ立たぬ なんの立たりょか子のあるに 

       箭山颪は火の国からか 空に火を吐く阿蘇からか 

       槍は錆びてもその名は錆びぬ 昔ながらの落し差し 

湯浴み祭りか地獄の煙か かかるしぶきも湯の香り 

 雪か霙か霙か雪か とけて波路の二つ文字 

 雪のだるまに炭団の目鼻 解けて流るる墨衣 

  雪の中でも梅さえ開く 兎角時節を待たしゃんせ 

  由布の朝霧山の根隠す 山の根のみか野も山も 

   由布の白雪朝日で解ける 解けりゃ流れる川の水 

   由布よ曇るな鶴見よ去らば 一夜波路じゃまた逢える 

    夢か現か現か夢か 覚めて涙の袖袂 

    百合か牡丹か鶴崎小町 踊り千両の晴れ姿 

宵に口説に白けた後を 啼いて通るや時鳥 

 宵は蜩あしたは狭霧 瀬戸は霞の観海寺 

 よせばよいのに舌切り雀 ちょいと舐めたが身の詰まり 

  淀の川瀬のあの水車 誰を待つやらくるくると 

  淀の車は水ゆえ廻る 私ゃ悋気で気が廻る 

   嫁に行くなら湯平がよかろ 夏は涼しゅてお湯が湧く 

別れ別れの釣瓶をつなぎ 丸く添わせる井戸の綱 

 わしが歌うたら大工さんが笑うた 歌に鉋がかけらりょか 

 わしが思いは月夜の松葉 涙こぼれて露となる 

  わしが思いは由の岳山の 朝の霧よりゃなお深い 

  わしが口説けば空飛ぶ鳥が 羽を休めて踊りだす 

   わしが在所は猪の瀬戸越えて 米の花咲くお湯どころ 

   わしが若い時ゃ吉野に通うた 道の小草もなびかせた 

    わしとあなたはお倉の米じゃ いつか世に出てままとなる 

    わしとあなたはすずりの墨よ すればするほど濃ゆくなる 

     わしとあなたは羽織の紐よ 固く結んで胸に置く 

     わしとあなたは松葉のようで 涸れて落ちても二人連れ 

      わしとあなたは道端小梅 ならぬ先から人が知る 

      わしとお前と立てたる山を 誰が切るやら荒らすやら 

       わしの思いは神場の浜じゃ 他に木はない松ばかり 

       わしも一重に咲く花ながら 人目悲しや八重に咲く 

        私ゃ青梅揺り落とされて 紫蘇と馴染んで赤くなる 

        私ゃあなたに惚れてはいるが 二階雨戸で縁がない 

         私ゃ歌好き念仏嫌い 死出の旅路も歌で越す 

         私ゃ奥山一本桜 八重に咲く気はさらにない 

          私ゃ踊りの鶴崎育ち 科のよいのは親譲り 

          私ゃ心と闇無浜は 月は出ずとも闇はない 

           私ゃ春雨主や野の草よ ぬれる度毎色を増す

           私ゃ別府の八幡地獄 ぽつりぽつりと日を暮らす 

            私ゃ湯の里鉄輪育ち 暑い情けが身の宝 

            私ゃ湯の町別府の生まれ 胸に情の灯がとぼる 

             私ゃ湯平一本松よ 風の便りを聞くばかり 

             私ゃ湯平湯治の帰り 肌にほんのり湯の匂い 

              割って見せたい胸三寸に 辛い浮世の義理がある

戻る