書生さん

書生さん 好きで虚無僧するのじゃないが 親に勘当され試験に落第し

仕方ないから尺八を 吹く吹く吹く間に門に立つ

 あの花は 粋な花じゃがありゃよその花 あの花野山に咲くならば

 一枝折りて床の間に あの花散るまで眺めたい

梅干は 酒も飲まずに顔赤く 年もとらずにしわ寄せて

元をただせば梅の花 鶯鳴かせた節もあり

 見やしゃんせ 忠臣蔵の七段を お軽さんは二階でのべ鏡

 縁の下では丸太夫が 由良さん知らいで文を読む

有明の 灯す油は菜種なり 蝶に焦がれて逢いに来る

元を質せば深い仲 死ぬる覚悟で来たわいな

 賜りし 御料の駒に一鞭当てて 行くよ仲国 嵯峨の奥

 峯の嵐か松風か 月に冴えゆく想夫恋

主さんと 逢わで寝る夜の寂しさに せめて便りの一筆も

思い疲れてままならぬ なまじ照らすな窓の月

 花づくし 山茶花 桜か水仙か 寒に咲くのは梅の花

 牡丹 芍薬 百合の花 万年青のことなら南天 菊の花

主さんに とても添われぬ縁ならば 思い切りましよ忘れましよ

とは言ふものの心では 添い遂げたいのが身の願い

 人は武士 気概は高山彦九郎 京の三条の橋の上

 遥かに皇居を伏拝み 落つる涙は加茂の水

山吹の 花を一枝折りたさや 折らせませんじゃなけれども

いまだ莟の恥ずかしさ 咲いたら折らんせ幾枝も

 これまでの 縁と思えどそりゃ罪なこと 人目忍んで気苦労の 

 恥ずかしいこと幾度か あまり邪慳も程がある

円髷に 結わるる身をば持ちながら 時節を待てとの仰せ故

今日の苦労もするわいな 晴れて添う日は何時の事

 悲しさの これが浮世か知らねども 同じ世界に住みながら

 一つの月を西東 別れて見るのも今しばし

月の夜に 二人拝んだ十五夜の 晴れし光に顔と顔

変わるまいぞえ変わらぬと 誓いしこともみんな空

 鬼灯は 小さい時から指さされ 色付けや他人の手にかかり

 腹を抉られ口吸われ 末は夫婦となるわいな

浅草の 観音さんの仰には 必ず妻子のある人に

末の約束せぬがよい 如何でも末には泣き別れ

 朝起きて 手水遣うて鬢かきあげて 東に向い手を合せ

 主に災難なけりゃよい ともにわたしも無事なよに

うたた寝の 夢の浮橋あと絶えて 渡りもやらぬ気のもつれ

解くにとかれぬ鬢髪は 今日もくよくよ物思い

 時雨たる 浅茅が原の夕暮に 二声三声かりがねの

 便り待つ身のいかばかり 胸のうやむやもつれ髪

鬢の毛に そっと忍びし花吹雪 君が浮きたる心かも

ただ物思う夕まぐれ 梢にやどる月のかげ

 身は一つ 心は二つみつたまの 流れに淀むうたかたの

 解けば結ぶの仮枕 啼くか啼かずかほととぎす

春雨に 二人しっぽり小座敷の 櫺子にのぞく梅の花

何をそねむか憎らしい 妾ゃあの花 主は雨

 月影や 草も露けき秋の夜に まだ寝もやらでくよくよと

 庭の松虫 誰を待つ もう寝たかとは憎らしい

紫の 色なつかしき燕子花 染めてなまなかくよくよと

明暮れ案じて日を送る 君の来ぬ夜はまた苦労

 飛鳥川 かわる淵瀬の浪枕 浮き寝の夢は結べども

 寄る辺定めぬ水鳥の 流れのままに任す身は

掻きたつる 闇の燈火影細く 待つに甲斐なき手枕の

何時か浪間の捨小舟 すまし顔なる夜半の月

 身のためと 思い過ごして別れしを それを疑う主さんは

 末を案じた実意より 時のお世辞がよいかいな

もの云わで 啼かぬ蛍を笑わしゃんすな ほんに心も闇の夜の

草に宿借る露の身を 憎らしいぞえ夕あらし

 むっとして 帰れば門の青柳に 曇りし胸も春の雨

 又も晴れ行く月の影 ならば朧にしてほしや

君は今 駒形あたり時鳥 啼いて明かせし胸の闇

月の顔見りゃ思い出す 欄干にもたれて独りごと

 我が恋は 住吉浦の景色かな ただ青々と待つばかり

 待つは憂いもの辛いもの 待つも待たるも世の習い

鳥影に 鼠鳴きしてなぶらるる これも苦界の憂さ晴らし

愚痴が飲まする冷酒も 君待つ身ほど苦の世界

 逢いたさに 用なき門を幾度か 通れど出て来ぬ性根なし

 但し女房が怖いのか さてもお前は二た心

八重一重 山もおぼろに薄化粧 娘盛りはよい桜花

嵐に散りて主さんに 逢うてなま中あと悔やむ

 青すだれ 遠者にひびく尺八も ゆかりの色や紫の

 きりりと締めた一つ舞 桜まばゆき高島田

鐘聞いて 今宵も顔を三囲や 心も解けて隅田川

君を待つ乳の山越えて 更けゆく月に虫の声

 我が恋は 雪の氷の日影とや 心一つを二筋に

 三筋にかけし三味線の 糸も綾なす胸の中

晴れて行く 空で嬉しき冬籠り 小春日和の暖かさ

梅もいつしか帰り咲き 邪魔する風の止めばよい

 書き送る 文もしばなき仮名書きの 示し合わせしかね言も

 岩にせかれし浪の雪 とけし浪路の二つ文字

つくづくと 思う夕の葉桜に 雨の落とせし淋しさの

憂きを問いくるほととぎす 啼けば濡れにし枕髪

 朧夜に 映る紫の人影は 濃い紫や藤浪の

 離れまいぞと柵も 身は気ず怠りな池の鯉

人さんに 言われし義理があるゆえに たとえ人気の落ちるとも

私も芸者の端じゃもの 末の末まで添い遂げる

 丸橋が 堀の深さは幾尺なるか かかるところに伊豆守

 南無三しもうたと笠かむり 忠弥は酔うたふりして千鳥足

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