第1章始まり



この世に悪魔は存在するか?

――する。なぜなら、私もそのうちの1人だったのだから…





「ここが人間界…。」

「そうよ、如月さん…あーもー慣れないわ!やっぱり私は“ありさ”って呼ぶわ。」

「……。」

「もう、感謝しなさいよ!このちづる姉様が幻術を使いまくって上手くいってるんだから。」

「ありがとう、ちづる姉さん…。」




如月ありさ。それが私の名前。

私は15歳になったばかりの悪魔。私達悪魔の住む悪魔界では、15歳になると人間界に修行へ行かせるという習わしがある。

私は今日、9月15日で15歳となり、人間界の“日本”というところに来た。

修行…それはこの世界で初めて出会った人間を不幸にすること…。


「いい?今からは“力”を使ってはいけないわよ。」

「わかってる。」

「じゃあまだ4月まで当分あるし、マンションでこの世界について勉強しましょうか。」

「まんしょん?」

「“ありさのこの世界での家”のことよ。」

「ふーん…。」




それ以来私は約半年、ちづる姉さん(こっちでは斉藤ちづると名乗っている)に色々教えてもらった。

そもそも人間界と悪魔界では仕組みが違いすぎる。だから長い時間をかけて学ばなければならない。

それでも、なんとか1人で生活できるほどになっていた。

その間“マンション”からは外に出ていないが、別に困る事は何もない。

すべてちづる姉さんが何とかしてくれている。

人間だったらそんなに長時間日光のあたらない室内にいるとストレスとやらがたまるらしいが、私達は元々闇の存在だから関係無い。


“学校”は高1から行くらしい。ちづる姉さんが幻術を駆使して何とかしてくれた。

歩いて10分のところだそうだ。

“受験”や“内申”は関係無い。

そんなことはすべて幻術で片づく問題だ。


私達悪魔は色々な“力”が使える。

ちづる姉さんが得意な幻術や新幹線並みの速さで走る事ができる。羽を出せば空も飛べる。

そういうもの全てをおさえて行動しなくてはならない。

自分が悪魔であることを他人に知られてはいけないのだ。


私は12歳の時、両親を失った。この世界で旅行をしていた2人は飛行機事故で死んでしまった。

命なんてあっけないものだ。

たとえ悪魔といっても基本は人間と同じなのだ。

ただ“力”を持つか持たないかの違いだ。

あの事故以来“落ちこぼれ”になった私にはちづる姉さんというコーチのような存在がついた。

この修行も通常は1人で行うが、私にはちづる姉さんがついている。




「約半年間お疲れ様。じゃあ今日は外に出ましょうか。色々買わなくてはいけないし。そろそろ人間を見つけないと。」

「そうね…。」

「ありさ…あなたが乗り気じゃないのはわかってる。でも…」

「わかってるわ。行きましょう。」

「…買い物が終わったら私は1度戻るわ。」

「え?」

「私も忙しいの。だから今から言うことをよく聞いて。」

「……。」

「まず、“力”は必要最低限しか使わない。それから人を呼ぶときは名字で、ね。  私達の世界では名字なんて存在しなかったから“如月”や“斉藤”は

こっち用につけただけだけど、他人にとっては名字が大切なの。いい?」

「ええ。」

「それと最後に1つ。私達は人間とは違う。これを心に刻んでおいて。」

「な、な、何それ…当たり前じゃない!」

「そう…当たり前よ。でも、当たり前の事ほど忘れられやすい。そして大切な事である。」

「ま、いいや。うん、覚えておくわ。」

「じゃ、行きましょうか。」




「昼間だとまた違うかんじだわ…。」

「そうね。来た時は夜だったから。」

「うん…わっ」

ドンッ

ボーッとしながら歩いていた私は左に曲がったとたんに誰かにぶつかったようだ。

顔をあげると少年がこちらを心配そうに見ている。

「す、すみません…ボーッとしながら歩いてたんで…。」

「いえいえ。大丈夫ですか?」

「え、ええ…。」




それが、初めて出会った人間だった。